第80話「意識の共鳴」
研究は——予想以上に、困難を極めた。
◇
「意識の共鳴を——制御する」
言葉にすれば、シンプルだった。
しかし——具体的な方法は、まったくわからなかった。
「父さんの記録には——これ以上、詳しい情報がない」
柊が言った。
「手探りで——進むしかない」
玲が答えた。
◇
まず——記憶の雨のデータを、さらに詳細に分析した。
「共鳴が起きた時——何がトリガーになったのか」
玲が考えながら言った。
「佐々木さんが——最初だった」
「彼が——『帰りたい』と強く思った時、始まった」
「意識の強さが——トリガーになる?」
「可能性はある。でも——」
玲は首を振った。
「それだけじゃ——説明できない。『帰りたい』と思う残響は、他にもいた」
「でも——共鳴は、起きなかった」
「そう。何か——別の条件がある」
◇
柊は——別のアプローチを試みた。
「佐々木さんの——状態を、詳しく見てみよう」
「どういう意味——」
「共鳴が起きる直前——彼のデータに、何か特徴があったはずだ」
玲は佐々木のデータログを呼び出した。
「見て——これ」
画面には——佐々木のデータの時系列変化が表示されていた。
「共鳴の直前——データの振動数が、変化してる」
「振動数——」
「通常、残響のデータは——一定の振動数を保っている。でも——」
玲は画面を拡大した。
「佐々木さんのデータは——共鳴の直前、振動数が上昇している」
「それが——トリガー?」
「かもしれない。振動数が——ある閾値を超えた時、共鳴が始まった」
◇
仮説が——少しずつ、形になっていった。
「残響の意識は——振動として、存在している」
玲が整理した。
「通常は——個別の振動数で、独立している」
「でも——振動数が変化すると」
「他の残響と——共鳴する可能性がある」
「じゃあ——振動数を制御できれば」
「共鳴を——制御できるかもしれない」
柊は考え込んだ。
「どうやって——振動数を制御する」
「わからない。でも——」
玲は言った。
「少なくとも——方向性は見えた」
◇
その夜、二人は遅くまで議論を続けた。
「意識の振動——」
柊が呟いた。
「父さんは——これに気づいていたのか」
「気づいていたと思う。でも——制御する方法は、見つけられなかった」
「俺たちに——見つけられるのか」
「わからない。でも——」
玲は柊を見た。
「諦めるわけには——いかない」
「そうだな——」
柊は頷いた。
「残響たちが——待ってる」
二人は——研究を続けることを、決意した。




