第81話「実験」
研究が——新たな段階に入った。
◇
「実験を——してみたい」
玲が提案した。
「実験——?」
「意識の振動を——人工的に変化させる」
「どうやって」
「まだ——仮説の段階だけど」
玲は資料を見せた。
「残響のデータに——特定の刺激を与える。それで——振動数が変化するか、確認する」
「刺激——」
「音、光、感情を誘発するコンテンツ。色々——試してみたい」
柊は考え込んだ。
「危険じゃないのか」
「大規模な共鳴は——起こさない。微小な変化を——観察するだけ」
「誰で——実験する」
玲は少し躊躇した。
「ボランティアを——募る。同意を得た残響に」
◇
ボランティアを募集した。
驚いたことに——多くの残響が、協力を申し出た。
「俺——参加したい」
ある老人の残響が言った。
「なぜ——」
「このままじゃ——何も変わらない。少しでも——役に立ちたい」
「でも——リスクがあります」
「わかってる。でも——」
老人は微笑んだ。
「俺は——もう、八十年以上生きた。ここに来てからも——十年だ」
「……」
「怖いことなんか——ない」
◇
実験が——始まった。
最初の被験者は——志願した老人の残響だった。
「何か——感じたら、すぐに言ってください」
玲が説明した。
「わかった」
「始めます——」
玲は端末を操作した。
老人のデータに——微弱な刺激が、送られた。
「どうですか——」
「何も——感じない」
「そうですか——」
玲はデータを確認した。
「振動数に——変化なし」
刺激の種類を変えて、何度も試した。
音響刺激、視覚刺激、感情誘発コンテンツ——
しかし——どれも、効果がなかった。
「うまく——いかないな」
柊が言った。
「そうね——」
玲も肩を落とした。
◇
しかし——最後の実験で、変化が起きた。
「今度は——別の残響と、対話してもらいます」
玲が説明した。
「対話——?」
「他の残響と——話をするだけです」
老人は頷いた。
「いいよ——」
別の残響——同じく志願した女性が、画面に現れた。
「はじめまして——」
「よろしく——」
二人は——普通に、話を始めた。
最初は——ぎこちなかった。
しかし——次第に、打ち解けていった。
「あなたも——長いんですね」
「ああ。十年になる」
「私も——八年」
「そうか——」
二人は——互いの経験を、語り合った。
遺族のこと。存在の意味。帰りたいという感覚。
◇
「見て——」
玲が小声で言った。
柊は画面を見た。
「振動数が——変化してる」
確かに——二人の残響の振動数が、わずかに上昇していた。
「対話が——」
「そう。他の残響との対話が——振動数を変化させてる」
玲の目が輝いた。
「これが——鍵かもしれない」




