第77話「父の足跡」
ある日——柊は、思い立って、父の記録を調べることにした。
◇
父、水無瀬蒼太——残響技術の先駆者。
そして——自ら命を絶った人。
「父さんは——何を考えていたんだろう」
柊は、父の研究記録を読み返していた。
残響技術の開発過程。技術的な課題。そして——倫理的な問題への言及。
『残響は——果たして、故人と同一視できるのか』
『意識の近似は——どこまで、本人と言えるのか』
『残響が——存在し続けることの意味とは』
父は——早くから、これらの問題に気づいていた。
「気づいていて——それでも、開発を続けた」
◇
さらに記録を読み進めた。
開発後期——父の記述は、より哲学的になっていた。
『残響は——遺族のために存在する。しかし——遺族が去った後、残響は何のために存在するのか』
『人間は——死ぬことで、何かを手放す。残響は——それを、手放せない』
『残響の最終的な行き先——それを、考えなければならない』
柊は——胸が痛んだ。
父は——わかっていた。
残響技術が抱える根本的な問題を。
「でも——答えは、見つけられなかったのか」
◇
記録の最後——父の遺書が添付されていた。
柊は——それを、読み直した。
『柊へ
この研究を——託す。
残響たちが——どこに帰ればいいのか。
その答えを——見つけてほしい。
父より』
柊は——涙が溢れそうになった。
「父さん——」
父は——答えを見つけられなかった。
だから——柊に託した。
「でも——俺にも、わからない」
◇
夜、玲に話した。
「父さんの記録を——読み返した」
「何か——わかった?」
「父さんは——早くから、問題に気づいていた」
「残響の——帰る場所」
「ああ。でも——答えは、見つけられなかった」
玲は考え込んだ。
「お父さんは——天才だった。それでも——」
「見つけられなかった」
「何十年も——研究を続けて」
「ああ——」
柊は溜息をついた。
「俺に——見つけられるのか」
「一人じゃ——無理かもしれない」
玲は柊を見た。
「でも——二人なら」
「玲——」
「私も——一緒に考える。答えを——見つけるまで」
柊は——玲の手を握った。
「ありがとう——」
◇
その夜——柊は、夢を見た。
父と——話をしている夢だった。
『柊——答えは、見つかったか』
『まだ——見つかってない』
『そうか——』
父は微笑んだ。
『焦らなくていい。ゆっくり——探せばいい』
『父さん——』
『残響たちが——どこに帰ればいいのか。その答えは——』
父の姿が——薄れていった。
『お前の中に——ある』
目が覚めた。
柊は——天井を見つめていた。
「俺の中に——ある」
何かが——少しだけ、見えた気がした。




