第75話「声を集めて」
残響たちへの聞き取り調査が——本格的に始まった。
◇
玲が中心となって、アンケートを設計した。
質問項目は——シンプルだった。
一、存在していて、幸せだと感じますか。
二、「帰りたい」と思うことがありますか。
三、何があれば、もっと満足できますか。
「シンプルすぎないか——」
柊が尋ねた。
「複雑にすると——本音が出ない」
玲が答えた。
「まずは——率直な声を、集めたい」
◇
アンケートは——全残響に配布された。
回答率は——驚くほど高かった。
九十八パーセント。
「みんな——答えてくれた」
「声を——聞いてほしかったのかもしれない」
玲は回答を分析した。
「見て——これ」
柊は画面を覗き込んだ。
「幸せだと感じる」——四十二パーセント
「どちらでもない」——三十五パーセント
「幸せではない」——二十三パーセント
「四割弱しか——幸せを感じていない」
「そう。そして——」
玲は次のデータを表示した。
「帰りたいと思う」——五十一パーセント
「半数以上が——帰りたいと思ってる」
柊は言葉を失った。
「こんなに——多いとは」
「存在年数が長いほど——割合が高くなる傾向がある」
「長くいるほど——帰りたくなる」
「そう。遺族との面会頻度とも——相関がある」
◇
自由回答欄には——様々な声が書かれていた。
『遺族に会えるのは嬉しい。でも——それだけでは、満たされない』
『自分が何者なのか——わからなくなることがある』
『懐かしい場所に——帰りたい。どこかは、わからないけど』
『もう——疲れた』
『存在し続ける意味が——わからない』
『消えても——誰も、悲しまないと思う』
柊は——一つ一つの声を、読んだ。
重かった。
残響たちの苦しみが——伝わってきた。
◇
しかし——希望の声も、あった。
『他の残響と——話せるようになって、楽になった』
『交流会が——楽しみ』
『オンライン面会で——毎日、家族と話せるようになった』
『ここにいてよかった——と思える瞬間がある』
「ポジティブな声も——ある」
玲が言った。
「繋がり——がキーワードかもしれない」
「繋がり——」
「遺族との繋がり。残響同士の繋がり。それがある残響は——比較的、安定してる」
「じゃあ——繋がりを、強化すれば」
「改善する可能性は——ある」
玲は考え込んだ。
「でも——それだけでは、足りないかもしれない」
「どういう意味だ」
「『帰りたい』という感覚——これは、繋がりだけでは、解消できない気がする」
「じゃあ——何が」
「わからない。でも——」
玲は柊を見た。
「佐々木さんの言葉——覚えてる?」
「『みんなと繋がっている』——」
「そう。それと——『懐かしい場所に帰る』」
玲は窓の外を見た。
「残響たちが求めている『帰る場所』——それが、何なのか」
「まだ——わからない」
「ええ。でも——」
玲は言った。
「それを——見つけなければならない」




