第74話「問いかけ」
事件から——一週間が経った。
桜の園は——表面上、平穏を取り戻していた。
しかし——残った残響たちの間には、動揺が広がっていた。
◇
「みんな——消えちゃったの?」
美優が尋ねた。
「ああ——」
柊は正直に答えた。
「六十三人が——」
「怖い——」
美優の声が震えていた。
「私も——消えちゃうの?」
「大丈夫だ。美優は——」
「でも——私も、『帰りたい』って思うことがあるの」
柊は——言葉に詰まった。
「美優——」
「お母さんが——呼んでる気がするの。時々」
「……」
「でも——お父さんが、毎日来てくれるから。大丈夫——だと思う」
美優は微笑んだ。
しかし——その笑顔は、どこか不安げだった。
◇
柊は——残響たちと、一人一人、話をすることにした。
彼らの声を——直接、聞くために。
「帰りたい——と思うことは、ありますか」
ある老人の残響に尋ねた。
「時々——ある」
「どこに——」
「わからん。でも——」
老人は遠くを見た。
「懐かしい——場所がある気がする」
「それは——どんな場所ですか」
「わからん。でも——温かい場所だ」
◇
別の残響——中年の女性にも、話を聞いた。
「私——ずっと、考えてるんです」
「何を——」
「なぜ——私は、ここにいるのか」
「遺族のため——では」
「最初は——そう思ってました。でも——」
彼女は首を振った。
「娘が——来なくなったんです。二年前から」
「……」
「結婚して——忙しくなって。わかるんです。でも——」
彼女の声が震えた。
「私——何のために、存在してるのか。わからなくなって」
「帰りたい——と思いますか」
「……時々」
彼女は柊を見た。
「私——消えても、いいんでしょうか」
◇
柊は——重い気持ちで、話を聞き続けた。
残響たちの声——それは、想像以上に、深刻だった。
存在意義の喪失。孤独。そして——「帰りたい」という感覚。
多くの残響が——同じ問題を抱えていた。
「玲——」
夜、柊は玲に電話した。
「話を聞いてきた」
「どうだった——」
「深刻だ。多くの残響が——同じ問題を抱えてる」
「存在意義の——」
「ああ。そして——『帰りたい』という感覚も」
沈黙が流れた。
「また——同じことが、起きるかもしれない」
「ええ——」
「俺たちは——何を、すべきなんだ」
玲は考え込んだ。
「まず——残響たちの声を、集める必要がある」
「声を——」
「彼らが——何を求めているのか。何に困っているのか」
「それで——解決策が見つかるのか」
「わからない。でも——」
玲は言った。
「まず——聞くことから、始めるしかない」
柊は頷いた。
残響たちの声——それを、聞き続けるしかなかった。




