第69話「記憶の漏洩」
対策会議が、再び開かれた。
◇
「データの漏洩——深刻な事態です」
玲が説明した。
「残響のデータが——他の残響のデータ領域に、漏れ出しています」
「原因は?」
沢渡が尋ねた。
「完全には——特定できていません。しかし——」
玲はデータを表示した。
「活性化した残響——つまり、『帰りたい』と言っていた残響から、漏洩が始まっています」
「存在意義の喪失と——関係があるのか」
「そう考えています」
沢渡は眉をひそめた。
「漏れている記憶は——?」
「主に——死ぬ直前の記憶です」
会議室がざわついた。
「死の記憶が——他の残響に、伝わっている?」
「はい。これが——さらなる不安定化を、引き起こす可能性があります」
「どういう意味だ」
「残響が——他の残響の死を、追体験してしまう。そうすると——」
玲は言葉を選んだ。
「自分の死も——思い出してしまうかもしれない」
◇
会議後、柊は玲と話し合った。
「まずいな——」
「ええ。連鎖反応が——起きる可能性がある」
「連鎖反応——?」
「一人の残響が不安定になると——その記憶が漏れる。漏れた記憶が——他の残響を不安定にする」
「そして——さらに記憶が漏れる」
「そう。このままだと——」
玲は深刻な表情をした。
「桜の園全体が——不安定になるかもしれない」
◇
その夜、柊は一人で考えていた。
記憶の漏洩——残響たちの境界が、曖昧になっている。
なぜ——こんなことが起きているのか。
「残響は——何のために、存在するのか」
柊は呟いた。
遺族のため——それが、答えだったはずだ。
でも、遺族との繋がりが薄れると——残響は、存在の意味を見失う。
見失うと——不安定になり、記憶が漏れ出す。
「残響にとって——遺族との繋がりが、どれだけ大切か」
柊は——母の残響のことを、思い出した。
母は——柊が毎日会いに行っていた。だから——安定していた。
でも、他の残響たちは——そうではない。
面会が減り、存在意義を見失い、不安定になっている。
「俺たちは——何を、すべきなのか」
◇
翌朝、玲から連絡があった。
「柊——大変。漏洩が——急速に広がってる」
「何だと——」
「昨夜から——Aブロック、Bブロックにも、波及し始めた」
柊の心臓が跳ねた。
「全体に——広がるのか」
「このままだと——そうなる」
「どうすればいい」
「わからない。でも——」
玲の声が震えた。
「何か——手を打たないと」
柊は——決意した。
「桜の園に——行く」
「わかった。私も——すぐに行くわ」
事態は——急速に悪化していた。




