第68話「新たな発見」
対策は——順調に進んでいた。
オンライン面会の利用者が増え、残響同士の交流会も定期開催されるようになった。
しかし——問題は、完全には解決していなかった。
◇
「水無瀬さん——また、活性化が記録されました」
田所が報告してきた。
「Cブロックか?」
「いえ——今度は、Dブロックです」
柊の眉が寄った。
「広がってるのか——」
「そうみたいです。しかも——」
田所は端末を見せた。
「今度は——違う言葉が、記録されてます」
『雨が——降っている』
『懐かしい——匂いがする』
『誰かの——記憶が、見える』
柊は——言葉を失った。
「記憶が——見える?」
「はい。複数の残響が——同じことを、言ってます」
◇
玲に連絡を取った。
「記憶が見える——?」
「ああ。残響たちが——そう言ってる」
玲は考え込んだ。
「残響は——他の残響の記憶を、見ることができるの?」
「普通は——できないはずだ」
「でも——見えてるって言ってる」
「ああ——」
沈黙が流れた。
「調べる必要がある——」
「今夜——また、桜の園に来る?」
「ええ。データを——詳しく分析したい」
◇
夜、玲が到着した。
二人はサーバールームで、データを分析した。
「見て——これ」
玲が画面を指差した。
「活性化した残響のデータに——異常がある」
「異常?」
「通常、残響のデータは——個別に管理されてる。でも——」
玲は別の画面を開いた。
「一部のデータが——他の残響のデータ領域に、漏れ出してる」
「漏れ出してる——?」
「ええ。だから——他の残響の記憶が、見えるのかもしれない」
柊は画面を見つめた。
「なぜ——そんなことが起きてるんだ」
「わからない。でも——」
玲は深刻な表情をした。
「このままだと——もっと、広がるかもしれない」
「広がる——?」
「データの漏洩が——全体に波及する可能性がある」
柊は——息を呑んだ。
◇
「対策は——あるのか」
「応急処置なら——できる。でも——」
玲は首を振った。
「根本的な原因が——わからない限り、一時的な対処にしかならない」
「根本的な原因——」
「なぜ——データが漏れ始めたのか」
玲は考え込んだ。
「残響たちが——『帰りたい』と言い始めたのと、関係があるのかもしれない」
「どういう意味だ」
「残響は——存在意義を見失うと、不安定になる」
「ああ——」
「不安定になると——データの境界が、曖昧になるのかもしれない」
柊は窓の外を見た。
雨が——降り続いている。
「残響たちの——存在意義を、取り戻すしかないのか」
「そうかもしれない。でも——」
玲は柊を見た。
「もう一つ——気になることがある」
「何だ」
「漏れ出してる記憶——特定のパターンがある」
「パターン?」
「死ぬ直前の記憶——が、多いみたい」
柊の心臓が跳ねた。
「死ぬ直前——」
「ええ。苦しみや——恐怖や。そういう——」
玲は言葉を選んだ。
「最も——強い記憶が、漏れてる」
沈黙が流れた。
「それは——まずいな」
「ええ。残響たちが——他の残響の、死の記憶を、見てしまう」
「精神的な——影響が」
「あるかもしれない。だから——」
玲は立ち上がった。
「早く——対策を、打たないと」
柊も頷いた。
新たな問題が——浮上していた。




