第66話「働きかけ」
対策の実行が始まった。
柊は——遺族への働きかけを担当することになった。
◇
最初にコンタクトを取ったのは——佐々木正雄の妻、佐々木千代だった。
八十代の高齢女性。夫の残響と、八年間を過ごしてきた。
「お忙しいところ——申し訳ありません」
柊は電話で話し始めた。
「いえ——何かありましたか?」
「佐々木さんの残響のことで——お話ししたいことがあります」
「正雄のこと——?」
千代の声が緊張した。
「何かあったんですか——」
「いえ、大丈夫です。ただ——」
柊は言葉を選んだ。
「最近——面会が減っていますね」
「……はい」
「何か——理由がありますか」
長い沈黙が流れた。
「私——足が悪くなって。電車に乗るのが、大変で」
「そうでしたか——」
「本当は——毎日でも、会いたいんです。でも——」
千代の声が震えた。
「体が——言うことを聞かなくて」
「千代さん——」
「正雄は——どうしてますか? 元気ですか?」
柊は少し迷った。
「正雄さんは——元気ですが、千代さんに会いたがっています」
「……」
「会えない日が続くと——寂しいと、言っていました」
千代が泣き始めた。
「ごめんなさい——正雄。私——」
「千代さん——」
「行きたいのに——行けなくて——」
柊は考えた。
「千代さん——オンライン面会は、ご存知ですか?」
「オンライン——?」
「自宅にいながら——残響と対話できるサービスです」
「そんなものが——」
「最近、導入されました。まだ——試験運用ですが」
柊は説明した。
オンライン面会——自宅のVR端末を使って、残響と対話できるシステム。
高齢者や、遠方に住む遺族向けに、開発されていた。
「使ってみませんか?」
「私に——できるかしら」
「サポートします。操作は——簡単です」
千代は——しばらく黙っていた。
「やってみます——」
「本当ですか」
「正雄に——会いたいから」
柊は——微笑んだ。
「ありがとうございます。すぐに——手配します」
◇
オンライン面会の導入が、進んでいった。
千代だけでなく——他の遺族にも、働きかけた。
高齢者、遠方に住む人、仕事が忙しい人。
様々な理由で面会が減っていた遺族たちに——オンライン面会を提案した。
「これで——自宅から会えるんですか?」
「はい。毎日でも」
「すごい——技術が進んでるんですね」
遺族たちの反応は——おおむね、好意的だった。
◇
一週間後。
効果が現れ始めた。
「水無瀬さん——佐々木さんの活性化、収まってます」
田所が報告した。
「本当か」
「はい。面会記録も——増えてます。オンラインで」
柊は端末を確認した。
確かに——佐々木の面会記録が、急増していた。
「千代さん——毎日、会ってるみたいだ」
「すごい。オンライン面会——効果ありますね」
「ああ——」
柊は微笑んだ。
一つ目の対策が——うまくいき始めていた。




