第62話「新婚生活」
結婚式から一ヶ月が過ぎた。
五月。新緑の季節。
柊と玲の新婚生活が——始まっていた。
◇
「おはよう」
朝、目が覚めると、玲が隣にいる。
「おはよう」
キスをして、起き上がる。
コーヒーを淹れる。朝食を作る。一緒に食べる。
「今日の予定は?」
「仕事。夕方には帰れると思う」
「私も。今日は——定時で上がれそう」
「じゃあ——一緒に夕食作ろう」
「うん」
何でもない、普通の朝。
でも——幸せだった。
「柊——」
「何?」
「結婚して——一ヶ月だね」
「ああ。早いな」
「幸せ——」
玲は微笑んだ。
「毎日——こうやって、柊と一緒にいられて」
「俺も——」
柊は玲の手を取った。
「玲がいてくれて——よかった」
◇
仕事も順調だった。
桜の園の管理者として、毎日、残響たちと向き合っている。
「水無瀬さん——新婚生活、どうですか?」
田所が尋ねた。
「いいよ。毎日——楽しい」
「そう見えます。顔が——緩んでますもん」
「そう?」
「そうです。幸せオーラ、出てますよ」
柊は少し照れた。
「そんなことない——」
「ありますよ。みんな——言ってます」
「そうか——」
柊は窓の外を見た。
新緑が眩しい。
「確かに——幸せかもしれないな」
◇
夕方、柊は桜の園を出た。
帰り道——スーパーで食材を買う。
今夜は——二人で、カレーを作る約束だ。
「ただいま」
帰宅すると、玲が既に帰っていた。
「おかえり。買い物してきてくれたの?」
「ああ。カレーの材料」
「ありがとう」
二人で——台所に立った。
玲が野菜を切る。柊が肉を炒める。
「柊——料理、上手くなったね」
「そう? 玲に教えてもらったから」
「でも——最初は、卵も割れなかったのに」
「うるさいな——」
二人は笑い合った。
こういう時間が——幸せだった。
◇
夕食後、二人でソファに座った。
「今日——いい日だったね」
玲が言った。
「ああ」
「毎日——こういう日が続くといいな」
「続くよ。きっと」
柊は玲を抱き寄せた。
「俺たちは——ここまで来た」
「うん」
「これからも——一緒に、歩いていこう」
「うん」
テレビを見ながら——穏やかな時間を過ごした。
◇
夜、柊は——母の写真に話しかけた。
「母さん——」
リビングに飾ってある、母の写真。
「俺——幸せだよ」
「……」
「毎日——玲と一緒で」
「……」
「見守っててくれて——ありがとう」
写真の中の母は——笑っていた。
柊も——微笑んだ。
「おやすみ、母さん」
ベッドに戻る。玲が隣で眠っている。
幸せな日常。当たり前の日々。
それが——一番の宝物だと、柊は思った。




