第61話「結婚式」
四月十五日。晴天。
結婚式の日が——来た。
◇
式場に着くと——桜が満開だった。
チャペルの窓から見える桜。風に揺れる花びら。
「きれい——」
控え室で、玲が窓の外を見つめた。
「ああ——」
柊も隣で、桜を見ていた。
「お母さんが——祝福してくれてるみたい」
「そうだな——」
◇
十三時。挙式が始まった。
柊はタキシード姿で、祭壇の前に立った。
祭壇の脇には——両親の写真が飾ってある。
父と母。二人の笑顔。
「見守っててね——」
柊は小さく呟いた。
オルガンの音楽が流れ始めた。
扉が開く。
玲が——ウェディングドレス姿で、現れた。
純白のドレス。ヴェールの下の、幸せそうな笑顔。
柊の心臓が——高鳴った。
玲が——ゆっくりと、バージンロードを歩いてくる。
玲の父——健一に、腕を支えられながら。
「玲を——頼むよ」
健一が柊に、玲の手を渡した。
「はい。必ず」
柊は玲の手を取った。
温かい。震えている。
「緊張してる?」
「少し——」
「俺も」
二人は——顔を見合わせて、微笑んだ。
◇
牧師の前で、誓いの言葉を交わした。
「水無瀬柊さん、あなたは——」
「はい、誓います」
「朝霧玲さん、あなたは——」
「はい、誓います」
指輪を交換した。
玲の薬指に、指輪がはまる。
「きれい——」
「玲が——きれいだよ」
「柊——」
牧師が宣言した。
「ここに、二人の結婚が成立したことを宣言します」
拍手が起きた。
「誓いのキスを」
柊は——玲のヴェールを上げた。
玲の顔が——涙で濡れていた。
「泣いてるの?」
「嬉しいの——」
二人は——キスをした。
窓の外で——桜の花びらが、舞っていた。
◇
披露宴が始まった。
会場は——温かい雰囲気に包まれていた。
柊の同僚、玲の同僚、両家の親族。
みんなが——二人を祝福してくれた。
「水無瀬さん——おめでとうございます」
田所が声をかけてきた。
「ありがとう」
「玲さん——きれいですね」
「ああ——」
「お母さんも——喜んでると思いますよ」
柊は写真を見た。
祭壇に飾られた、母の写真。
「ああ——喜んでる。きっと」
◇
スピーチの時間。
柊が立ち上がった。
「本日は——お忙しい中、お集まりいただき、ありがとうございます」
会場が静まった。
「私は——幼い頃に父を亡くし、母と二人で育ちました」
「……」
「母も——二年前に亡くなりました。でも——」
柊は母の写真を見た。
「母は——残響として、私のそばにいてくれました。五年間」
「……」
「母の残響と過ごした時間は——私の宝物です」
柊の声が震えた。
「母は——私が幸せになることを、ずっと願ってくれていました」
「……」
「今日——玲と結婚できて、母の願いを叶えられた気がします」
柊は玲を見た。
「玲——ありがとう。俺と——結婚してくれて」
「柊——」
「これからも——ずっと、一緒にいてね」
「うん——約束する」
会場から——拍手が起きた。
柊は——母の写真に、微笑みかけた。
「見ててくれてる——よね、母さん」
窓の外で——桜が、風に舞っていた。




