第57話「冬の日々」
十二月。冬が深まっていた。
結婚式まで、あと四ヶ月。
◇
年末の桜の園は、静かだった。
面会者は減り、残響たちも——穏やかに過ごしている。
「水無瀬さん——今年も、お疲れ様でした」
田所が言った。
「ああ。田所も——お疲れ様」
「来年——結婚式ですね」
「ああ」
「楽しみですね」
田所は微笑んだ。
「水無瀬さんが——幸せそうで、嬉しいです」
「そう見える?」
「見えます。前より——ずっと」
柊は少し照れた。
「ありがとう」
◇
大晦日。
柊と玲は——二人で年越しを過ごした。
「去年の大晦日——お母さんと、三人で過ごしたね」
玲が言った。
「ああ——」
「今年は——二人だね」
「そうだな——」
柊は窓の外を見た。
雪が降り始めていた。
「来年の大晦日は——どうなってるかな」
「どうって?」
「結婚して——新婚で」
玲は微笑んだ。
「楽しみだね」
「ああ——」
「でも——今年の大晦日も、いいよ」
「え?」
「二人だけで——静かに、過ごせて」
玲は柊に寄り添った。
「私——こういう時間、好き」
「俺も——」
二人は——しばらく、雪を眺めていた。
午前零時。新年を告げる鐘が鳴った。
「あけましておめでとう」
「あけましておめでとう」
二人は——キスをした。
新しい年。結婚の年。
◇
正月。柊は——桜の園に初詣のように訪れた。
仕事ではなく——挨拶のために。
「あけましておめでとうございます」
VR空間に入り、残響たちに挨拶した。
「おお、水無瀬さん。あけましておめでとう」
山田が声をかけてきた。
「今年も——よろしくお願いします」
「こちらこそ。今年——結婚するんでしょ?」
「ああ」
「おめでとう。招待状——もらってもいいかな」
「え?」
「冗談だよ。俺——残響だから、行けないし」
山田は笑った。
「でも——お祝いの気持ちは、本物だ」
「ありがとうございます——」
「奥さんを——大切にしなよ」
「はい」
柊は——残響たちに、一人一人挨拶をした。
みんな——柊の結婚を、祝福してくれた。
◇
母の場所にも——足を運んだ。
桜の木の下。今は——雪が積もっている。
「あけましておめでとう、母さん」
柊は空に向かって話しかけた。
「今年——結婚するよ。春に」
「……」
「玲と——幸せになる。約束するよ」
風が吹いた。雪が舞った。
「見守っててね」
柊は——しばらく、その場所にいた。
母の温もりを——感じながら。
◇
「どうだった?」
帰宅すると、玲が尋ねた。
「みんな——祝福してくれた」
「よかったね」
「母さんにも——挨拶してきた」
「お母さんも——喜んでたでしょ」
「わからない。でも——」
柊は微笑んだ。
「聞いてくれてる気がした」
「そう——」
「今年——いい年になる気がする」
「私も——そう思う」
二人は——手を繋いで、新年の抱負を語り合った。
結婚。新しい生活。新しい人生。
全てが——楽しみだった。




