第55話「報告」
週末。柊と玲は——両親の墓参りに訪れた。
秋晴れの日。風が心地よい。
◇
水無瀬家の墓の前で、柊は手を合わせた。
「父さん、母さん——報告があります」
隣で、玲も手を合わせている。
「俺——結婚することになりました」
風が吹いた。木の葉が舞った。
「相手は——玲。朝霧玲です」
「……」
「小学生の頃——一緒に遊んだ、幼馴染です」
柊は微笑んだ。
「母さんも——会ったことがあります。残響の時に」
「……」
「父さんは——会ったことないけど。でも——」
柊は墓を見つめた。
「きっと——気に入ってもらえると思います」
玲が口を開いた。
「お父さん、お母さん——初めまして。朝霧玲です」
「……」
「柊のこと——大切にします。約束します」
風が吹いた。線香の煙が揺れた。
「お二人の分も——愛します。ずっと」
玲の目が潤んでいた。
「幸せに——なります。必ず」
◇
墓参りを終え、二人は霊園のベンチに座った。
「報告——できたね」
「ああ——」
「お父さんとお母さん——喜んでくれてると思う?」
「喜んでる。きっと」
柊は空を見上げた。
「母さんは——ずっと、俺が幸せになることを願ってた」
「……」
「だから——結婚すること、報告できて、よかった」
「柊——」
「父さんも——きっと、同じだと思う。俺の幸せを——願ってくれてた」
柊は微笑んだ。
「二人とも——見守ってくれてる」
「そうだね——」
玲は柊の手を取った。
「私たち——二人の分も、幸せにならなきゃね」
「ああ——」
二人は——しばらく、秋の空を見上げていた。
◇
その夜、柊は——桜の園を訪れた。
仕事ではなく——私用で。
「水無瀬さん? こんな時間に」
夜勤の田所が声をかけた。
「ああ。少し——」
「どうしたんですか?」
「報告したい人が——いて」
柊は対話ブースに向かった。
◇
VR空間にログインした。
母の専用空間は——既に、存在しない。
でも——桜の園は、そのままだ。
柊は——母とよく話していた場所に、座った。
桜の木の下。秋なので——葉は紅く染まっている。
「母さん——」
柊は空に向かって話しかけた。
「聞こえてる?」
返事はない。当然だ。
「報告があるんだ」
「……」
「俺——結婚することになった。玲と」
風が吹いた。紅葉が舞った。
「今日——父さんと母さんの墓に、報告してきた」
「……」
「母さんなら——喜んでくれると思う」
柊の目から、涙がこぼれた。
「ありがとう、母さん。俺を——ここまで、育ててくれて」
「……」
「俺——幸せになるよ。母さんが望んでくれた通りに」
紅葉が——柊の周りを、舞っていた。
まるで——母が、祝福してくれているように。
「見守っててね。どこかで」
柊は——しばらく、その場所にいた。
母との思い出。五年間の日々。
全てが——今の柊を、作っている。
◇
「どうだった?」
帰宅すると、玲が尋ねた。
「報告——できた」
「お母さん——聞いてくれた?」
「わからない。でも——」
柊は微笑んだ。
「聞いてくれてる気がする」
「そう——」
「紅葉が——舞ってたんだ。俺の周りに」
「きれいだったでしょうね」
「ああ——」
柊は玲を見つめた。
「母さんが——祝福してくれてるみたいだった」
「お母さん——喜んでるよ。きっと」
「そうだといいな——」
二人は——抱き合った。
新しい人生への——一歩。
母も——きっと、見守ってくれている。




