第54話「両家の承諾」
翌週、柊は玲の両親に、正式に挨拶をした。
朝霧家のリビング。健一と洋子が、柊を迎えた。
◇
「改めて——お嬢さんとの結婚を、許可していただきたいのですが」
柊は深々と頭を下げた。
「顔を上げてくれ、水無瀬くん」
健一が言った。
「はい」
「玲から——聞いている。プロポーズのこと」
「……」
「玲は——とても、幸せそうだった」
健一は柊を見つめた。
「私たちは——玲の幸せを、願っている。だから——」
「お許しいただける——でしょうか」
「もちろんだ」
健一は微笑んだ。
「君は——玲を、幸せにしてくれる。私たちは——そう信じている」
柊の目が潤んだ。
「ありがとうございます——」
「こちらこそ。玲を——よろしく頼む」
「はい。必ず——幸せにします」
洋子も涙ぐんでいた。
「柊くん——ありがとうね」
「いえ——」
「玲は——小さい頃から、あなたのことを話してたのよ」
「え?」
「『柊くんと遊んだ』『柊くんが——』って」
玲が慌てた。
「お母さん——やめて」
「本当のことよ」
洋子は微笑んだ。
「きっと——あの頃から、玲は——柊くんのことが、好きだったんだと思う」
「……」
「だから——嬉しいの。二人が——結ばれて」
柊は——洋子を見つめた。
「ありがとうございます」
「玲を——お願いね」
「はい」
◇
挨拶を終えた後、四人で食事をした。
洋子の手料理。温かい家庭の味。
「式は——いつ頃を考えてる?」
健一が尋ねた。
「来年の春を——考えています」
「春か。いい季節だな」
「はい。桜が咲く頃に——」
柊は少し言葉を切った。
「母も——桜が好きでしたから」
「……」
「お母さんのことは——聞いてるよ」
健一が言った。
「玲から——大変だったって」
「はい——」
「でも——お母さんも、喜んでるだろう。息子の結婚を」
「そう——だといいです」
柊は微笑んだ。
「母にも——報告したいです。墓前で」
「そうしなさい。きっと——喜ぶよ」
◇
帰り道。
「両親——承諾してくれたね」
玲が言った。
「ああ。よかった——」
「心配してたの?」
「少し」
「大丈夫だって言ったでしょ」
玲は柊の腕に、自分の腕を絡めた。
「これで——正式に、婚約者だね」
「ああ——」
「来年の春——楽しみだね」
「ああ——」
柊は空を見上げた。
「母さん——」
「ん?」
「報告しに行こう。今度の週末」
「お墓に?」
「ああ。結婚すること——伝えたい」
玲は頷いた。
「私も——挨拶する。お母さんに」
「ありがとう——」
二人は——手を繋いで、歩いていった。
秋の夜空。星が瞬いている。
新しい人生が——始まろうとしていた。




