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残響の庭  作者: とま


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52/120

第52話「研究発表」

 八月。残暑が厳しい日々。


 玲が——大きな発表を控えていた。


          ◇


「来週——学会で発表があるの」


 玲が言った。


「学会?」


「残響工学の国際会議。柊のお母さんのケースを——報告する」


「母さんの——」


「もちろん、匿名で。でも——重要な事例だから」


 玲は資料を見せた。


「残響の自己認識と欠損の関係。そして——欠損を認識した後の変化」


「……」


「柊のお母さんのケースは——世界で初めて、詳細に記録された事例なの」


 柊は資料を見つめた。


「母さんのことが——研究に役立つのか」


「ええ。これからの残響技術に——大きな影響を与えると思う」


「そうか——」


 柊は微笑んだ。


「母さんも——喜ぶと思う」


「そう?」


「ああ。自分の経験が——誰かの役に立つなら」


 玲は柊を見つめた。


「ありがとう。許可してくれて」


「許可も何も——玲の研究だから」


「でも——柊のお母さんのことだから」


 玲は少し緊張した様子だった。


「発表——緊張してる?」


「少し。国際会議、初めてだから」


「大丈夫。玲なら——できる」


「……ありがとう」


          ◇


 発表の日。


 柊は——会場に、見に行くことにした。


 東京国際フォーラム。大きな会場だった。


「こんな——大勢の前で発表するのか」


「緊張する——」


 玲は顔が青ざめていた。


「大丈夫。俺が——見てるから」


「柊——」


「玲の研究は——すごい。自信を持って」


 玲は深呼吸をした。


「わかった。頑張る」


          ◇


 発表が始まった。


 玲はステージに立ち、スライドを映しながら話し始めた。


「本日は、残響の自己認識と欠損に関する新たな知見をご報告します」


 最初は緊張していたが——話し始めると、落ち着いていった。


「ケーススタディとして、ある残響の事例を紹介します。この残響は——」


 母のことだ、と柊は思った。


 匿名化されているが——柊にはわかる。


「残響が自己の欠損を認識した時、何が起きたか。そして——」


 玲の声は、力強かった。


「その認識が——残響のアイデンティティにどのような影響を与えたか」


 スライドが進む。データが示される。


「結論として——」


 玲は会場を見回した。


「残響が自己の欠損を認識することは、必ずしも否定的な結果をもたらさない」


「……」


「むしろ——自己認識が安定し、より健全な存在になる可能性がある」


 会場がざわついた。


「これは——従来の定説を覆す知見です」


 玲の目が輝いていた。


「残響は——欠損を抱えたまま、存在し続けることができる。そして——」


 玲は柊を見た。一瞬だけ。


「適切な時に——自分で終わりを選ぶこともできる」


 発表が終わった。


 拍手が——会場に響いた。


          ◇


 発表後、柊は玲に駆け寄った。


「すごかった——」


「本当?」


「本当。玲——かっこよかった」


 玲の頬が赤くなった。


「ありがとう。柊が——見てくれてたから」


「俺は——何もしてない」


「してくれた。そばにいてくれた」


 玲は柊の手を握った。


「これで——お母さんの経験が、世界に伝わる」


「ああ——」


「お母さんのおかげで——残響技術が、前に進む」


 柊は微笑んだ。


「母さんも——喜んでると思う」


「そうだといいな」


 二人は——手を繋いで、会場を後にした。


 母の経験が——世界を変える。


 それは——柊にとって、誇らしいことだった。


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