第33話「秋」
十月。紅葉の季節。
桜の園は、赤や黄色に染まった木々に包まれていた。
VR空間内の残響たちも——秋の景色を楽しんでいた。
◇
柊と玲の関係は、順調だった。
週に二、三度の食事。時々の休日デート。
お互いの仕事を尊重しながら——ゆっくりと、距離を縮めていた。
「柊——来週、空いてる?」
ある日、玲が言った。
「来週? 土曜なら空いてる」
「私の実家——行かない?」
柊は少し驚いた。
「実家?」
「両親に——紹介したくて」
「付き合い始めて、まだ一ヶ月だぞ」
「でも——幼馴染だから。元々、知ってるし」
玲は少し照れた様子だった。
「母が——柊に会いたいって。昔から、柊のこと、覚えてるみたいで」
「そうなのか——」
柊は考えた。
「わかった。行くよ」
「本当? ありがとう」
玲は嬉しそうに微笑んだ。
◇
土曜日、柊は玲の実家を訪れた。
都心から電車で一時間。郊外の閑静な住宅街だった。
「久しぶりね、柊くん」
玲の母——朝霧洋子が、柊を出迎えた。
「お久しぶりです。小学生以来ですね」
「そうね。あの頃は——玲と、よく一緒に遊んでたわね」
洋子は優しく微笑んだ。
「さ、上がって。お父さんも、待ってるわ」
リビングに通されると、玲の父——朝霧健一が座っていた。
「やあ、水無瀬くん。久しぶりだね」
「お久しぶりです」
柊は頭を下げた。
「玲とは——幼馴染だって聞いてる。改めてよろしく」
「こちらこそ」
四人で食卓を囲んだ。
洋子の手料理。温かい家庭の味だった。
「柊くん——残響庭園で働いてるんですって?」
洋子が尋ねた。
「はい。桜の園で、管理者をしてます」
「大変なお仕事ね」
「大変ですけど——やりがいはあります」
柊は答えた。
「遺族の方々と、残響の方々。両方の支えになれればと思って」
「立派ね」
健一が頷いた。
「残響技術は——賛否両論あるけど、大切な仕事だと思うよ」
「ありがとうございます」
◇
食事の後、玲と二人で庭を散歩した。
小さな庭だが、手入れが行き届いていた。
「両親——どうだった?」
「優しい人たちだった」
「そう。よかった」
玲はほっとした様子だった。
「緊張した?」
「少し。俺——こういうの、慣れてなくて」
「私も。彼氏を紹介するの、初めてだから」
二人は笑い合った。
「玲——」
「何?」
「俺も——玲を、母さんに紹介したい」
玲の表情が変わった。
「お母さんって——残響の?」
「ああ。母さんの残響に——正式に、紹介したい」
玲は少し考えた。
「前に——一度、会ったことあるけど」
「あの時は、研究者として会った。今度は——」
「彼女として?」
「ああ」
玲は微笑んだ。
「いいよ。会いたい。ちゃんと」
「ありがとう」
柊は玲の手を取った。
「母さんも——喜ぶと思う」
「そうだといいな」
二人は——手を繋いだまま、秋の庭を歩いた。
◇
翌週、柊は玲を連れて、母の残響と面会した。
「母さん、紹介する。玲——朝霧玲」
「初めまして——いえ、二度目ですね」
玲が頭を下げた。
「前回は——研究者として、お話しましたけど。今日は——」
「柊の彼女、として?」
母が微笑んだ。
「はい」
「嬉しいわ。ちゃんと紹介してもらえて」
母は玲を見つめた。
「玲ちゃん——柊のこと、よろしくね」
「はい。大切にします」
「ありがとう」
母の目が潤んだ。
「私——ずっと、柊のことが心配だった。でも——玲ちゃんがいてくれれば、安心」
「お母さん——」
「柊は——不器用だけど、優しい子よ。時々——頑固になるけど」
「母さん——」
柊が抗議したが、母は無視した。
「でも——根は、いい子。だから——」
「わかってます」
玲は微笑んだ。
「柊の良いところも、悪いところも——全部、好きですから」
母の目から、涙がこぼれた。
「ありがとう——」
三人は——秋の桜の園で、穏やかな時間を過ごした。




