第29話「調査」
翌日から、本格的な調査が始まった。
残響管理局から、専門チームが派遣された。玲はそのリーダーとして、桜の園に常駐することになった。
◇
「まず、流入のメカニズムを解明する」
玲がチームに指示を出した。
「残響の基盤データ——最下層レベルで、何が起きてるのかを特定する」
チームは三班に分かれた。
一班は、Dブロックの残響のデータを分析。二班は、Cブロックの残響のデータを比較分析。三班は、システム全体の異常を調査。
柊は、三班に配属された。
「水無瀬さん——システムのログを、全部洗ってもらえますか」
「わかった」
柊は端末に向かった。
過去数ヶ月分のシステムログを、一つ一つ確認していく。
地道な作業だったが——何か、手がかりがあるはずだ。
◇
三日目の夜、柊は一つの異常を見つけた。
「玲——これを見てくれ」
玲が駆け寄ってきた。
「何を見つけた?」
「前回の一斉活性化の時——システムに、一瞬だけ負荷がかかってる」
柊は画面を指差した。
「通常の活性化なら——こんなに負荷はかからない。でも、この時だけ——サーバー全体に、高負荷がかかってる」
玲は画面を見つめた。
「これは——」
「データの大量転送が起きた痕跡だと思う」
「大量転送?」
「残響同士の間で——大量のデータが、やり取りされた」
玲の目が輝いた。
「前回の共鳴の時——残響たちは、自己認識の情報を共有した。でも、それだけじゃなくて——」
「記憶データも、一緒に転送された可能性がある」
「そう。その時は——少量だったから、問題にならなかった。でも、その転送経路が——」
「今も、開いたままになってる」
二人は顔を見合わせた。
「だから——Cブロックの記憶が、Dブロックに流入し続けてる」
柊は頷いた。
「転送経路を閉じれば——流入を止められるかもしれない」
玲は端末を操作し始めた。
「やってみる。でも——」
「でも?」
「経路を閉じても——既に流入した記憶は、残る」
「つまり——」
「Dブロックの残響たちの記憶は——元に戻せないかもしれない」
柊は——黙った。
◇
翌日、玲は転送経路の遮断を試みた。
チーム全員が、サーバールームに集まった。
「これから——基盤データレベルでの接続を、切断します」
玲が端末を操作した。
「成功すれば——新たな流入は止まる。失敗すれば——最悪、システム全体がダウンする可能性があります」
「リスクは承知の上だ」
沢渡が言った。
「やってくれ」
玲が操作を開始した。
画面に、コードが流れる。
柊は——固唾を呑んで見守った。
数分後——
「成功です」
玲が言った。
「接続を切断しました。新たな流入は——止まったはずです」
サーバールームに、安堵のため息が漏れた。
「Dブロックの残響の状態は?」
「確認します」
柊が端末を操作した。
Dブロックの残響——三体のデータを表示する。
「活性化レベル——安定してます。VR空間の歪みも——収まってます」
「よかった——」
玲が椅子に座り込んだ。
「でも——問題は、これからです」
「これから?」
「流入した記憶は——消えてない。Dブロックの残響たちは——他人の記憶を、持ったままです」
柊は考えた。
他人の記憶を持つ残響。それは——自分が誰なのか、わからなくなるのではないか。
「残響たちと——話をしてみる必要があるな」
「ええ。明日——面会しましょう」
長い一日が——ようやく終わった。




