第28話「混線」
玲が到着したのは、深夜だった。
二人はサーバールームで、データを分析した。
「見て——これ」
玲が画面を指差した。
「Dブロックの三体の残響——データの一部が、他の残響と重複してる」
「重複?」
「同じ記憶データが、複数の残響に存在してる。それが——混線の原因」
柊は画面を見つめた。
「なぜ、そんなことが——」
「わからない。でも——」
玲は別のデータを呼び出した。
「重複してる記憶は——全部、Cブロックの残響からのもの」
「Cブロック? 前に異変が起きた——」
「そう。古い残響たちのデータが、新しい残響に流入してる」
柊は考えた。
Cブロックの残響たちは——「私はここにいない」という現象を経験した。そして、母が真実を知った後——状態が安定した。
だが、その影響が——新しい残響にも及んでいる?
「前回の共鳴——その続きか?」
「可能性はある。でも——前回は、感情や自己認識のレベルだった。今回は——」
「記憶そのものが、流入してる」
「ええ。より深いレベルでの共有が起きてる」
玲は深刻な表情だった。
「このまま放置すると——残響のアイデンティティが崩壊するかもしれない」
◇
緊急対策会議が招集された。
桜の園の上層部、残響管理局の担当者、そして柊と玲。
「状況を説明してください」
沢渡が言った。
「Dブロックの三体の残響に——記憶の混線が発生しています」
玲が報告した。
「原因は、Cブロックの残響からの記憶データの流入。なぜ流入が起きたかは、調査中です」
「対策は?」
「現時点では——流入を止める方法がわかりません」
室内がざわついた。
「止められないとは——」
「残響同士のデータ共有は、通常は制御されています。でも、今回の流入は——制御の外で起きている」
玲は画面を表示した。
「残響の基盤データ——最下層のレベルで、共有が発生しています。これは——前例のない現象です」
「前例がない?」
「はい。残響技術が始まって以来——こんなことは、起きたことがありません」
沈黙が流れた。
沢渡が柊を見た。
「水無瀬、何か心当たりは?」
「直接的な原因は——わかりません」
柊は正直に答えた。
「でも——一つ、気になることがあります」
「何だ」
「前回の異変の時——母の残響が、全国の残響に影響を与えました」
「水無瀬さんのお母さん?」
「はい。母が——ある真実を知った時、その情報が——他の残響にも伝わった」
玲が続けた。
「その時は——感情や自己認識のレベルでの共有でした。残響たちが『自分の中に欠けている部分がある』と気づいた」
「それが——今回の混線に関係してる?」
「可能性はあります。前回の共有がきっかけで——残響同士の繋がりが、より深くなったのかもしれません」
会議室が静まり返った。
「つまり——」
沢渡が言った。
「あなたのお母さんの残響が——引き金を引いた?」
柊は——答えられなかった。
◇
会議が終わった後、柊は一人でサーバールームに残った。
玲が声をかけてきた。
「柊——大丈夫?」
「ああ——」
「会議で言われたこと——気にしてる?」
「少し」
柊は端末を見つめた。
「母さんの残響が——原因かもしれない」
「まだ、わからないわ」
「でも——可能性はある」
「柊——」
「俺が——母さんに真実を伝えたから。それが——引き金になった」
柊の声が震えた。
「俺の判断が——間違ってたのかもしれない」
「違う」
玲が柊の肩に手を置いた。
「柊の判断は——正しかった。お母さんは——真実を知って、楽になった」
「でも——」
「残響同士の繋がりが深くなったのは——副作用かもしれない。でも、それは——柊のせいじゃない」
玲は柊を見つめた。
「これは——残響技術そのものの問題。柊一人の責任じゃないわ」
柊は——玲を見た。
「ありがとう——」
「お礼は——解決してから」
玲は微笑んだ。
「今は——原因を特定しよう。解決策を見つけよう」
「ああ——」
柊は頷いた。
後悔している暇はない。今は——目の前の問題に、集中しなければ。




