表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残響の庭  作者: とま


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/120

第24話「祖母の成仏」

 祖母の成仏は、一週間後に執り行われた。


 柊は、その日のために休暇を取った。


 玲も同行してくれた。


「ありがとう」


「いいよ。私も——見届けたかったから」


 横浜残響庭園の対話ブース。柊と玲は、VRヘッドセットを装着した。


          ◇


 祖母の空間——日本家屋。


 祖母は、縁側で待っていた。白い着物を着ている。


「来てくれたのね」


「はい」


 柊は祖母の前に座った。


「準備は——できてますか」


「ええ。もう十分」


 祖母は微笑んだ。


「長い間——ここにいた。颯太を待って。でも——もう、待つ必要はない」


「……」


「颯太は——もっと早く、私に会いに来なくなるべきだった。そうすれば——あの子は、前に進めた」


 祖母は庭を見つめた。


「でも、あの子は——私を捨てられなかった。私も——あの子を、手放せなかった」


「おばあさん——」


「だから——ありがとう。あなたが——終わりを、くれた」


 祖母は柊を見た。


「颯太の息子に——看取られるなんて。これ以上の幸せは、ないわ」


 柊の目から、涙が溢れた。


「おばあさん——」


「泣かないで。私は——幸せよ」


 祖母は柊の手を取った。


「最後に——一つだけ、お願い」


「何でも」


「颯太のお墓に——花を供えてくれる? 私の分も」


「はい。必ず」


「ありがとう——」


 祖母は目を閉じた。


「じゃあ——始めてちょうだい」


 柊は端末を操作した。


 成仏プロトコル——実行。


 祖母の体が——光り始めた。


 花びらが散るように。風が吹くように。


 祖母の姿が——少しずつ、透明になっていく。


「柊さん——」


 祖母の声が、遠くなっていく。


「あなたは——颯太と違う。前に進める。だから——」


「おばあさん?」


「あなたのお母さんの残響も——いつか、送り出してあげてね」


 柊は——何も言えなかった。


「約束——」


 祖母の声が、消えていく。


「約束、します」


 柊は答えた。


 祖母は——微笑んでいた。最後の瞬間まで。


 そして——祖母は、光の粒子になって、消えていった。


 縁側には——誰もいなくなった。


          ◇


 成仏プロトコルが完了した後、柊はしばらくその場に座っていた。


 祖母がいた場所を——見つめていた。


「柊——」


 玲が声をかけた。


「大丈夫?」


「ああ——多分」


 柊は立ち上がった。


「おばあさんは——幸せそうだった。最後まで」


「ええ。そう見えた」


「よかった——」


 柊は深呼吸をした。


「これで——一つ、終わった」


「終わった?」


「父さんの——過去が。おばあさんが成仏して——父さんを縛っていたものが、消えた」


 玲は頷いた。


「そうね。でも——」


「まだ、終わってないこともある」


 柊は玲を見た。


「わかってる」


「何が?」


「母さんの残響のこと。いつか——俺も、決断しなきゃいけない」


 玲は——何も言わなかった。


 ただ、柊の隣を歩いた。


          ◇


 その夜、柊は母の残響と対話した。


「おばあさんが——成仏した」


「そう——」


 母の声は、静かだった。


「どうだった?」


「おばあさんは——幸せそうだった。最後まで、笑ってた」


「よかった」


「ああ——」


 沈黙が流れた。


「母さん」


「なあに」


「おばあさんが——最後に言ってた」


「何を?」


「『あなたのお母さんの残響も——いつか、送り出してあげてね』って」


 長い沈黙が流れた。


 母は——しばらく黙っていた。


「そう——」


 やがて、母が口を開いた。


「美代さんは——わかってたのね」


「何を?」


「私も——いつかは、成仏しなきゃいけないこと」


 柊の心臓が痛んだ。


「母さん——」


「柊、聞いて」


 母は柊を見つめた。


「私は——あなたと一緒にいられて、幸せだった。五年間、毎日」


「俺も——」


「でも——いつまでも、ここにいるわけにはいかない。わかってる」


 母の目から、涙が溢れた。


「あなたが——前に進む準備ができた時。その時は——私も、行くわ」


「母さん——」


「約束して。その時が来たら——私を、送り出してね」


 柊は——母の手を握りしめた。


「約束——する」


「ありがとう——」


 二人は——しばらく、手を繋いだまま、夜の桜の園にいた。


 祖母がいなくなった夜。


 柊は——次の決断について、考え始めていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ