第111話「十五年」
柊が残響庭園で働き始めて——十五年が経った。
◇
柊は——四十一歳になっていた。
責任者として——三年が経過していた。
陽向は——五歳。来年から——小学校に通う。
「パパ——今日、幼稚園で、発表会があったんだよ」
「そうか——どうだった?」
「上手にできた——」
「偉いな——」
柊は陽向を抱き上げた。
◇
残響庭園は——大きく変わっていた。
技術が進歩し——残響たちの生活は、より豊かになっていた。
「常在の繋がり」システムも——さらに改良されていた。
「水無瀬さん——最新のデータです」
田所が報告した。
彼も——四十代になっていた。
「残響たちの満足度——過去最高です」
「そうか——」
「『帰りたい』という訴えも——ほとんど、なくなりました」
「よかった——」
柊は安堵した。
◇
しかし——成仏を希望する残響は、依然としていた。
それは——自然なことだった。
「今月——五人が、成仏を希望しています」
「全員——長期間存在していた残響か」
「はい。十五年以上の方が——」
「わかった。手続きを——」
柊は——もう、悲しみだけを感じなくなっていた。
成仏は——終わりではない。新たな旅立ちだ。
そう——思えるようになっていた。
◇
ある日——沢渡から、連絡があった。
「水無瀬——元気か」
「沢渡さん——お久しぶりです」
「引退して——三年か。早いもんだ」
「お元気ですか——」
「ああ。孫の面倒を見て——のんびりやってる」
沢渡の声は——穏やかだった。
「残響庭園は——どうだ」
「順調です——」
「そうか。安心した」
「沢渡さんのおかげです——」
「いや。お前が——頑張ってるからだ」
沢渡は笑った。
「水無瀬——これからも、頼むぞ」
「はい——」
◇
夜、柊は考え込んでいた。
十五年——長いようで、短かった。
母の残響に会い始めてから——すべてが始まった。
そして——今、ここにいる。
「玲——」
「何——」
「俺——この仕事を、選んでよかった」
玲は微笑んだ。
「私も——そう思う」
「母さんのおかげだ——」
「お母さん——」
「母さんの残響に——会えたから。この仕事に——出会えた」
柊の目に——涙が浮かんだ。
「母さん——ありがとう」
玲は——柊の手を握った。
「お母さんも——喜んでるわよ」
「そうかな——」
「きっと——」
二人は——しばらく、黙って座っていた。
過去に感謝し——未来に希望を持ちながら。




