第110話「次の世代へ」
美優がいなくなってから——数ヶ月が経った。
◇
柊は——時折、美優のことを思い出した。
明るい笑顔。優しい言葉。
彼女は——確かに、ここにいた。
「美優——」
柊は呟いた。
「元気でやってるか——」
◇
陽向は——四歳になっていた。
美優のことを——時々、思い出していた。
「パパ——みゆちゃんの絵、描いたよ」
陽向が絵を見せた。
花に囲まれた——少女の絵だった。
「上手だな——」
「みゆちゃんに——見せたいな」
「きっと——見えてるよ」
「本当——?」
「ああ。どこかで——見守ってる」
陽向は嬉しそうに笑った。
◇
仕事は——順調だった。
残響庭園は——安定して運営されていた。
「常在の繋がり」システムも——問題なく稼働していた。
「水無瀬さん——新しいスタッフが、入りました」
田所が報告した。
「何人だ——」
「三人です。みんな——若くて、熱心です」
「そうか——」
柊は微笑んだ。
「次の世代が——育ってきてるな」
「はい——」
◇
新しいスタッフ——二十代の若者たちだった。
柊は——彼らに、話をした。
「残響庭園で——大切なこと」
「はい——」
「残響を——人間として扱うこと」
「……」
「データじゃない。一人一人が——大切な存在」
若者たちは——真剣に聞いていた。
「そして——遺族を、大切にすること」
「はい——」
「残響と遺族——両方があって、初めて意味がある」
柊は彼らを見つめた。
「わかるか——」
「わかります——」
「よし。じゃあ——現場で、学んでくれ」
「はい——」
若者たちは——元気よく返事をした。
◇
夜、柊は考え込んでいた。
次の世代——彼らに、何を伝えられるか。
技術、知識、経験——それだけじゃない。
大切なのは——心だ。
「父さん——」
柊は呟いた。
「俺も——次の世代に、伝えていく」
「お前が——伝えてきたことを」
窓の外には——星が輝いていた。
◇
「柊——」
玲が声をかけた。
「どうした——」
「考え事——?」
「ああ。次の世代のことを——」
「若い子たち——いい子たちだね」
「そうだな——」
「柊が——育ててくれる」
「俺に——できるかな」
「できるわよ——」
玲は微笑んだ。
「柊は——いい先生になれる」
「そうかな——」
「そうよ。美優も——柊のこと、大好きだった」
柊は——少し、照れくさくなった。
「ありがとう——」
「一緒に——頑張ろうね」
「ああ——」
二人は——手を繋いで、夜空を見上げた。




