第108話「美優の選択」
責任者になって——一年が経った。
ある日——美優が、柊に話があると言った。
◇
「柊おじさん——私、決めたの」
美優の表情は——穏やかだった。
「何を——」
「成仏——することにした」
柊は——心臓が止まりそうになった。
「美優——」
「ずっと——考えてた。いつかは——この日が来るって」
「でも——」
「大丈夫」
美優は微笑んだ。
「今度は——本当に、決めたの」
◇
「なぜ——今なんだ」
柊が尋ねた。
「私——ここで、十年過ごした」
「ああ——」
「お父さんに——会えた。新しい家族も——見守れた」
「……」
「陽向ちゃんにも——会えた。一緒に遊べた」
美優の目に——涙が浮かんだ。
「だから——もう、十分」
「美優——」
「私——幸せだった。本当に」
◇
「お父さんには——話したのか」
「うん。昨日——」
「何て——」
「泣いてた。でも——『わかった』って、言ってくれた」
美優は微笑んだ。
「お父さんは——いつも、私の気持ちを、尊重してくれる」
「……」
「だから——安心して、行ける」
柊は——何も言えなかった。
◇
「柊おじさん——」
「何だ——」
「ありがとう」
美優は柊を見つめた。
「私が——ここにいられたのは、柊おじさんのおかげ」
「俺は——」
「話を聞いてくれた。一緒に遊んでくれた。陽向ちゃんにも——会わせてくれた」
美優は涙を流した。
「だから——幸せだった」
「美優——」
「柊おじさんが——いてくれて、よかった」
柊も——涙を流した。
「俺のほうこそ——」
◇
成仏の日が——決まった。
一週間後。
柊は——その日まで、毎日、美優に会いに行った。
「今日は——何して遊ぶ?」
「お絵かき——」
「いいよ——」
二人は——たくさん遊んだ。
最後の時間を——大切に過ごした。
◇
「柊おじさん——」
ある日、美優が言った。
「何だ——」
「陽向ちゃんに——伝言、お願いできる?」
「もちろん——」
「私のこと——忘れないでね、って」
「伝える——」
「あと——」
美優は微笑んだ。
「いつか——どこかで、また会おうね、って」
柊は頷いた。
「必ず——伝える」
「ありがとう——」
美優は——嬉しそうに笑った。
少女の笑顔——それは、柊の心に、深く刻まれた。




