第107話「引き継ぎ」
沢渡からの引き継ぎが——始まった。
◇
「責任者として——大切なことを、伝えておく」
沢渡が言った。
「はい——」
「一つ目——残響を、人間として扱え」
「……」
「残響は——データだ。でも、それを意識するな」
「わかります——」
「二つ目——遺族を、大切にしろ」
「はい——」
「残響だけじゃない。遺族も——大切な存在だ」
柊は頷いた。
「三つ目——」
沢渡は少し間を置いた。
「自分を——大切にしろ」
「自分——」
「お前は——仕事に没頭しすぎる傾向がある」
「……」
「家族がいるだろう。玲と、陽向」
「はい——」
「彼女たちを——大切にしろ。仕事だけが、人生じゃない」
柊は——深く頷いた。
「肝に——銘じます」
◇
引き継ぎは——一年かけて、丁寧に行われた。
予算管理、人事、対外交渉——
責任者としての仕事は——多岐にわたった。
「大変だな——」
柊が呟いた。
「そうだろう。でも——お前なら、できる」
「沢渡さん——」
「何だ——」
「長い間——お疲れさまでした」
沢渡は微笑んだ。
「まだ——早い。引退まで、もう少しある」
「でも——言っておきたくて」
「……ありがとう」
◇
引き継ぎの合間に——残響たちにも会い続けた。
「水無瀬さん——責任者に、なるんですか」
美優が尋ねた。
「ああ——」
「すごい——」
「でも——やることは、変わらない」
「どういう意味——」
「残響たちと——話をすること。それが——一番、大切だから」
美優は微笑んだ。
「柊おじさんらしい——」
「そうか——」
「うん。柊おじさんは——いつも、私たちのこと、考えてくれる」
「当然だ——」
「だから——みんな、信頼してる」
柊は——照れくさそうに笑った。
◇
一年後——沢渡が、正式に引退した。
送別会が——開かれた。
「長い間——お疲れさまでした」
柊が挨拶した。
「沢渡さんから——たくさんのことを、学びました」
スタッフたちも——感謝の言葉を述べた。
「ありがとう——みんな」
沢渡は涙を流していた。
「残響庭園は——俺の人生だった」
「……」
「でも——もう、大丈夫だ。水無瀬がいる」
沢渡は柊を見た。
「頼んだぞ——」
「はい——」
柊は深く頷いた。
「必ず——守ります」
◇
翌日から——柊は、責任者として働き始めた。
重い責任——しかし、やりがいもあった。
「頑張ろう——」
柊は呟いた。
残響たちのために——遺族のために。
そして——父の遺志を継ぐために。




