第104話「十二年目」
月日が——流れた。
柊が桜の園で働き始めて——十二年になっていた。
◇
陽向は——二歳になっていた。
言葉を覚え始め——「パパ」「ママ」と呼ぶようになった。
「パパ——」
陽向が柊に手を伸ばした。
「はいはい——」
柊は陽向を抱き上げた。
「今日は——どこ行く?」
「こうえん——」
「公園か——よし、行こう」
◇
桜の園も——変化していた。
「常在の繋がり」システムが——完全に安定していた。
残響たちは——穏やかに過ごしていた。
「水無瀬さん——最近、異常報告が減ってます」
田所が報告した。
「そうか——」
「システムが——うまく機能してるみたいです」
「玲のおかげだな——」
玲は——育児休暇から復帰し、システムの改良を続けていた。
◇
しかし——成仏を希望する残響は、依然としていた。
「今月——三人が、成仏を希望しています」
田所が言った。
「全員——長期間存在していた残響だな」
「はい。十年以上の方が——」
「わかった。手続きを——」
「はい——」
柊は——複雑な気持ちだった。
成仏は——悲しいことでもあり、穏やかなことでもあった。
◇
成仏の儀式に——立ち会った。
八十代の女性の残響だった。
「ありがとうございました——」
彼女は微笑んでいた。
「十二年——長かったですね」
「はい。でも——幸せでした」
「よかった——」
「子どもたちが——毎週、会いに来てくれた。孫も——大きくなった」
彼女の目に——涙が光った。
「だから——満足です。そろそろ——」
「わかりました——」
成仏プロトコルが——起動された。
彼女の姿が——光に包まれていった。
「さようなら——」
彼女は手を振った。
「また——どこかで」
◇
儀式の後——柊は考え込んでいた。
「水無瀬さん——大丈夫ですか」
田所が声をかけた。
「ああ——」
「成仏の儀式——何度見ても、複雑な気持ちになりますね」
「そうだな——」
「でも——彼女は、幸せそうでした」
「ああ——」
柊は窓の外を見た。
「それが——一番、大切なことなんだろうな」
「はい——」
◇
帰宅すると——陽向が出迎えた。
「パパ——おかえり」
「ただいま——」
柊は陽向を抱き上げた。
「今日——何してた?」
「ママと——お絵かき」
「そうか——見せてくれ」
「うん——」
陽向は——嬉しそうに、絵を持ってきた。
家族の絵だった。
パパ、ママ、そして陽向。
「上手だな——」
「えへへ——」
柊は——陽向を抱きしめた。
生きている命——それが、何より愛おしかった。




