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25.熱の終わり


先に仕掛けたのは蟻王の方だった。

残っていたもう片方の触覚を、エナの顔面めがけて飛ばしてくる。


しかし、それが彼女に届くことはなかった。


「――点火」

エナの詠唱で、突然足元が爆ぜる。

その衝撃で、やつの懐まで一気に潜り込む。


だがやつも左の前脚で迎撃にかかる。

エナも反応して、即座に脚を切り払う。

本来なら金属のかち合う音がするはずだった。


先程まで無理やり断ち切っていた蟻王の甲殻が、

なんの抵抗もなく斬り落とされた。


――キュイィィィィ


やつも驚いたのか悲鳴を上げながらのけぞる。


「――ここです」

エナがそのまま切り込みにかかる。

しかし、こちらの斬撃が届くよりも先に、蟻王の腹部の先端がこちらに向く。


すでに酸を吹きかける準備をしてる。

このままでは真正面から酸を浴びることになる。


(――まずい!)

すると、エナは右手を噴射口に突っ込んで無理やり止めにかかる。

直後、肉が焼けるような音が響く。


「くっ……」

「エナ!!!」

確実に手が溶けているが、そんなことはお構いなしのようだ。

「はあぁぁぁぁぁ」

エナの右肘から先の炎が強まる。

内側から焼くことで、酸の噴出を防いだようだ。


だが、代償として右腕は完全に失ってしまった。

内側から焼いたものの、致命には至らない。

蟻王は、まだ動いている。


「くっ……うわあぁぁぁぁ」

エナは苦悶の表情を浮かべたが、残った左手で剣を突き立てる。

「いけ、エナ!」

渾身の力で、装甲を溶かし貫こうとした。

しかし突然――


ドスッ


何かが突き刺さる鈍い音が響く。


「…………は?」

よく見ると彼女の腹から見覚えのないものが生えている。

それはエナの腹部を、蟻王の触覚が貫いたものだった。


「エナ!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

エナは腹部を刺されたまま渾身の力で剣を押し込む。


キュイィィィィ


蟻王は苦しみの声を挙げて再びのけぞる。

そのはずみで腹部の触覚も抜けて、それにつられてエナもふらつく。

しかし、彼女は倒れることなく剣を握ったまま踏みとどまった。


すると、エナの体から立ち昇る炎が消えていく。

その一方で俺の中の熱がどんどん高まっていくのを感じた。


「スルト――!!!」


瞬間、剣から圧縮された熱が放たれた。

蟻王の甲殻は赤熱し、節々からは炎が吹き出る。

周囲に異臭が漂い灰が舞う。


それでもやつは止まらない。

蟻王は炎をまといながら、エナに向かって噛みつく。


「……ぐっ!」

「エナ!!!」

彼女の肌が焼け、肉が裂ける。

だが蟻王の顎はエナの肩を食いちぎることはなかった。

目から光が消え、力を失ったようにゆっくりと滑り落ちていく。


そして――

蟻の王はもう動くことはなかった。


「………………勝ったのか」

(ギリギリだが勝てた)


「はぁ……はぁ……」

エナは、もはや立っているのがやっとのようだった。

膝が崩れかけているのを、剣を掴んで無理やり支えている。


「くっ……」

わずかに残っていた力で剣を引き抜く。

だが、それによって支えを失いふらつき始める。


「おい、大丈夫か?」


バタンと音を立てて、エナが地面に倒れる。

それと同時に、俺の剣化も解ける。


次の瞬間、視界が闇に沈む。

エナの姿も――もう、見えなかった。


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