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26.暗闇の果てで

諸事情でPCが使えない期間が長く続いたため、更新が遅れました。


坑道は、灰と魔力へ還元される光が舞い散っている。

蟻王の死骸の炎で、真っ暗なはずの周囲もよく見えた。


勝利の光景と考えれば、美しいのだろう。

しかし今の俺には、そんなことを考える余裕はなかった。


「――おい、エナ!」

うつ伏せのまま動かない相棒に呼びかける。

魔力消費と強制接続の影響で、うまく手足に力が入らない。


「うぁ……あぁ……」

激しい戦闘の余波が一気に来たのだろう。

声を出すのがやっとで、自分の意思では全く動けないようだ。


鉛のように重い手足を引きずりながら、彼女の下へ寄る。


炎で照らされた剣精の姿は、かつてないほど痛々しいものだった。


(右腕はないし腹には穴が空いて、肩も……半分千切れかけてる)

人間ならとっくに死んでいるだろうが、さすがは上位精霊といったところだろう。

しかし、このままでは傷からの魔力漏れで、回復に使う魔力どころか存在を保つことすらできなくなるだろう。


(急いで街に戻らないと――)

あの都市にはもう一体、上位精霊がいる。

あいつなら、なんとかできるはずだ。


「エナ、立てるか?早くここから――」

倒れた彼女を起こそうと手が触れた瞬間、まるで熱した鍋に触れたような感覚がした。


「熱っ!」

あまりの熱さに反射的に手を引っ込める。


(――さっきの炎の影響か)

精霊は人間と違って魔力の塊、熱で死ぬことはない。

とはいえ、このままでは魔力切れで消滅してしまう。


「このままじゃ……」

悩んでいたが、そこで改めて彼女の姿を確かめる。

全身傷だらけで、息も絶え絶えだ。

それと比べて、今の自分にはかすり傷しかない。

それもこれも、彼女が防御に俺を使わなかったからだ。


ここまで俺のために自分自身を犠牲にした相手に対して、

火傷を怖がっている事実がひどく恥ずかしくなった。


「すぅ……はぁ……」

(――今度は俺の番だ)

俺は深く呼吸し、覚悟を決める。


「エナ、待ってろよ」

熱を緩和するために彼女の着ていた外套を脱がす。

付け焼き刃でも、これで少しでも身体が冷めればそれでいい。

そして彼女の外套と自分の外套を腕に巻き付けた。


「…………いくぞ」

彼女を仰向けにして、そのまま抱きかかえる。

片腕が無いとはいえ、その身体は恐ろしく軽かった。


軽すぎる――そう思った瞬間、背筋に嫌なものが走る。

人とは構造が違う、そんな言葉では片付かないほどに。


恐ろしさはあった――

だが、今はそれどころじゃない。

(運べるなら、今はそれでいい)


「もう少しの辛抱だからな」

俺は彼女を抱えたまま、真っ暗な坑道を進んだ。

灯りは持てないが、エナはここまで真っ直ぐ走っていた。

(あれだけ急な襲撃だったんだ、出口は遠くないはず)


とはいえ――

「くそっ……」

いかに整備されていようと、ここは坑道。

足場が悪く思うように速度が出ない。


それでも、彼女を落とさないように慎重に進んでいく。


――暗闇の中、どれほど進んだだろう。

灯りもないため、時間の感覚はとうに消えていた。

だが余熱が抜けてきたのか、腕から感じる熱も下がってきた。

そんなことを考えていた時、淡い光が見えてきた。


「もうすぐだ……」

それが外の光とわかり、終わりを感じた瞬間だった。

なぜか脚が震えて動かない。


(ここまで無理やり動かしてきた反動か……)

一歩が比べ物にならないほど重たい。


(なんでだよ!)

それでも無理やり進もうとして、膝から突然力が抜ける。

支えを失った俺は、そのまま前のめりで倒れ込む。


「やべっ!」

どんどん地面との距離が近づく。

このままでは、エナを地面に落とすばかりか下敷きにしてしまう。

エナだけは守ろうと、寸前で身を翻す。


「くっ!」

だが次に感じたのは地面の硬い感触ではなく――

代わりに背を受け止めたのは、柔らかな感触だった。

横を向いて見ると、なぜか坑道には花畑が広がっていた。


(いったい何が――)

花の香りに紛れて、突然声が現れた。

「坑道から漏れていたアリが消えたから来てみれば」

「――ずいぶんと疲れているようだな」

目に入ったのは、場違いなほど穏やかなあの笑顔だった。


「マー……リン……」

(なんで……こんなところに……)

以前話したときの印象を考えると、俺たちを助けに来るようなやつじゃない。

となると他に目的があるはずだ。


「”なぜ”と言った顔だな」

マーリンも俺の表情から察したのか、嬉しそうにこちらを覗き込む。

だが誰かいるという安心感が生まれた途端に、保っていた意識が薄れていく。


「今……って……おい、聞い……るのか」

マーリンの声がどんどん遠ざかる。


「ああ……、ダ……だ……」

花精の呆れた顔と花の香りを最後に、俺はまた闇に落ちた。


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