(16)妖精の隠れ里
昨日更新できずでした。
ようやく恋愛パートに戻りそうです。
エリーのことを私は好きなのだ。
それもおそらく、同性の友人だと思っていた頃から。
もうこれは自分で否定しようもなかった。
そして、まっすぐに向けられた愛情に嘘がないことも伝わっている。
その気持ちが嬉しいからこそ、そんなエリーに本当にこれ以上迷惑をかけていいのだろうかと思ってしまう。
どちらかといえば即決即断タイプである私が、自分の判断を決めかねてうじうじと悩んでしまうなんて、前世でも今世でも初めてことだ。
誰かを本気で好きになるって、守りたいものが増えるってことなんだなと改めて感じていると、不意に頬をつんつんとつつかれた。
どうやら私はいつのまにかまた俯いていたらしく、驚いて顔をあげると澄んだ青空のような瞳が優しく細められた。
「さて。馬鹿共の話はこれで終わり!今度は君にとって大事なもう一つの用件だ」
「ふふっ、馬鹿共って…」
「エタ、君の祖先にあたる妖精の一族の隠れ里があるのが、実はうちの領地だってことは、知ってる?」
「ええ!?し、知らない…です」
突然変わった話題に、一瞬頭がついて行かなかったけれど、少なくとも私が知っている口伝や記録の中に隠れ里の位置を明記したものはなかったはずだ。
現在の領地より北の方から来たということぐらいは書いてあったが、エリーから聞いた彼らの能力を思えば、あえて曖昧な表記にしてあったのだろうと思う。
万一他国にでも知られれば、一族を自国に攫って行こうとする者が後を絶たないだろうから。
「そっか。まあ、あくまでも隠れ里だから無理もないね」
「だから、王家だけでなくエリーの家も色々な事情を知っていたのね」
確かに、他に高位貴族家はいくつもあるにも関わらず、何故メルカッツ家だけが情報を王家と共有しているのだろうとは思っていた。
聞いてみれば、なるほどそれならば納得である。
つまり、隠れ里を今も昔も保護しているのはエリーの家だということだ。
「それもあるけど、そもそも、ツヴェルク家の初代になった騎士っていうのは我が家に仕えていた騎士団の一部隊の隊長だったんだけど、それも君の家には伝わっていないみたいだね?」
「そ、そうなんですか?だったらエリーの家と我が家は昔からご縁があったのね…」
「そういうこと。彼らの隠れ里が国の北部にある我が領地にあるから、植物魔法の恩恵のバランスをとるために君の家は国の南に領地を与えられたんだよ」
「ああ、なるほど…それも我が家には特に伝えられていなかったはずです」
我が国の穀倉地帯は国の北部に広がっていて、初代の頃は南部も実り豊かな土地だったそうだが、その後200年以上南部ではあまり作物が育たないと言われていたらしい。
その為、南部には商業や工業などを中心とした街が多かった。
ところが18年前、私が生まれた頃から果樹や農作物が良く実るようになり、近くの男爵領では珍しい果物なども育てることができるようになったと聞いていた。
聖女であるリーゼロッテ様が聖女の力に目覚めた恩恵だと噂されていたが、どうやらそれが私のせいだったなんて言われても信じるのは難しい。
妖精姫の力をあてにした国が、あえて南部に領地を宛がったというのも国を治めるものの判断としては十分理解できる。
ただ、姫の力はその後子孫に現れずに来たのだから、当時の王家はさぞやガッカリしたことだろう。
「じゃあ、小人ぐらいの小さな妖精姫がどうやって人間の騎士と結ばれたのかは、エタの家には伝わっている?」
「どうやって…?そういわれてたら確かに大きさが違うけど、妖精って不思議な存在だからあまり考えたことがなかったわ……魔法かしら?」
我が家の廊下に飾ってある絵には、跪いた初代ツヴェルグ伯爵の掌に小さな手を重ねて微笑む妖精姫が、苔むした切り株に立つ姿が描かれていた。
けれども、言われてみれば騎士と姫の体格差は愛情だけで乗り越えられるようなものではないだろう。
「我が家は彼らを保護している関係で、今も時折交流があるんだ。もちろん、君の祖先の恋物語も幼い頃から聞かされていたし、彼らからツヴェルクに強い妖精の力を持った子が生まれたと彼らからも知らされていて、実はエタのことも入学前から知っていたんだ」
「まぁ!ちっとも知らなかったわ!じゃあ、私が知らないうちに妖精たちは我が家の様子も見に来ていたの?だ、だから入学してすぐ声をかけてくれたの?」
さっきまでの話を聞いていて、王家の指示で私を保護する為に友人になってくれたのかと思っていたが、もしかして妖精族からの依頼だったのだろうか。
どちらにしても、そういった指示でもなければ高位貴族の令息が私のような貧乏伯爵令嬢に『友達になって』などと声はかけないだろう。
「彼らがどうしてエタのことを知ったのかは私も分からない。あの時声をかけたのは、もちろん確かに君の保護をするためってこともあったんだけど、私の場合は単純に妖精令嬢って呼ばれる女の子に興味があった、というのが正直な所かな。だって、幼い頃から物語として聞いていた妖精の姫が目の前にいるんだよ?しかも、植物達にも愛される緑の手を持っているなんて、話してみたくなると思わない?」
クスクスと笑いながら、コテンと首を傾げるエリーの仕草は男性だと分かっていても実に愛らしかった。
義務感だけでなく、物語に出てくる存在への好奇心だと聞けば、私も思わず納得してしまう。
私だって、さっきから話に出てくる妖精族に会ってみたいと思っているのだから。
「まぁ……私も他人事だったらそう思った…かも」
「それに彼らを保護するメルカッツ家の者として、もしも君が強すぎる妖精の力が原因で困ったときには私が近くで手助けしなければという責任感もあったかな」
元々今回、バイラー侯爵に私の存在を知られた原因もその妖精の力の暴走だったわけで、もしも学園で同じような事態が起きたら、確かに私だけではどうすることもできなかっただろう。
なにしろ私自身は、珍しくもない植物魔法だと思っていたのだから、もしも誰かに襲われるようなことがあれば、マルクの時同様の魔力暴走は十分起こりえたはずだ。
私の知らない間に刺客に対処してくれていたらしいエリーには、本当に感謝しかない。
「そうなのね。ありがとう、エリー」
「どういたしまして。ところが仲良くなってみたら、幼く見えるのはその容姿だけで、エタは私の助けなど必要としない程に真面目で優秀で、思いやりがある素敵な令嬢だった。気付いたら見た目の幼さも、エタの持つ力も関係なく、いつの間にか1人の女性として惹かれていたぐらいにね」
ふわりと微笑むエリーは、とっても綺麗なのに全然女の子には見えなくて。
美貌の青年からそんなことを見つめながら言われては、頬がポポポと熱をもってしまうのは仕方がないと思う。
どうして、エリーの青い瞳に映る私はそんなに素敵に見えるのだろうか。
例え妖精姫の子孫で先祖がえりの力があったとしても、私は見た目は子供、中身も普通の小娘なのに。
「そ、そんな風に言ってもらえるほど、優秀じゃないわ。負けず嫌いだからお勉強はいっぱいしたけれど、エリー達のように本当に優秀な方たちには遠く及ばないわ。真面目なのだって誰かに迷惑をかけてしまいそうで、怖くて羽目を外せないだけだもの」
「そんなことないよ?エタは本当に素敵な令嬢だよ。だけど、一緒に過ごせば過ごすほどに普段は明るく振舞う君が、幼く見える外見に対するコンプレックスのせいだろうけれど、自己評価がとても低いのが気になってしまったんだ。今みたいにね」
「自己評価…低いの、かな?自分では当然の評価だと思うんだけど…」
だってこの学園には、本当に優秀な生徒達が集まっているのだ。
その代表格ともいえるであろう学年トップを終始譲らなかったエリーと違って、私なんてテストの成績も辛うじて一番良いクラスにぶら下がっているレベルなのだ。
見た目によらず堅物だとは、家族からももらっていた評価なので真面目ではあるのだろうが、褒められる程の清廉さを伴うものでもない。
自分自身がそう思うのに、エリーには自己評価が低いように見えるらしい。
「私から見たらかなりね?君は自分に厳しすぎると思うよ。まあそれで、なんとかエタの悩みを解決できる手段はないのかと思って、一度彼らに尋ねてみたことがあるんだ。妖精の大きさだった姫はどうやって人間と結婚できたのかって」
「彼らって、妖精族に?」
「そうだよ。そしたらね?彼らの長はなんと、今も君の先祖になった姫のお兄さんだっていうんだよ。彼らは本当に長寿なんだね」
「えええ?!そう、妖精姫のお兄さんが今も……」
妖精って長生きなのか。
それにしては、妖精姫であった初代ツヴェルグ夫人は既に他界している。
長生きだったという記録もないし、族長だけが長生きするのだろうか。
それとも、人間と結婚したから早死にしたのだろうか。
そんなことを考えていた私に、エリーが穏やかで、そして嬉しそうな声音でこう告げたのだ。
「だから今のエタのことを説明したんだよ。どうにか君の悩みをなくしてあげたいのだとね。そうしたら、本当は彼らの一族の秘術だけど、君の助けになればと、長が教えてくれたんだ。魔法…いや正確には精霊魔法かな?彼女はね、成長魔法をかけたんだって」
告げられたのは、私にとって本当に意外な事実だった。
エリーはロリコンじゃない…はず!
果たしてエタの前世からの悩みは解決するのか。
次もなるだけ早めに更新したいと思っています。
もし少しでも面白い!更新頑張れ!等思っていただけましたら、ブックマークや評価などして頂けたら嬉しいです。
優しい読者様からの応援、とても励みになります!
評価はページの下にある【☆☆☆☆☆】をタップしていただければできます。




