(13)秘された危険
本日2度目の更新です。
12話を読んでいない方はそちらから読んで頂けたらと思います。
うじうじエタちゃんですみません。
「謝るの?エリーが私に?どういうこと?」
ロリコンだと隠していてごめんってこと?
いやまだエリーがロリコンだと決まったわけじゃないんだけど。
性別を隠していたこと?
それはビックリしたけど、王家と辺境伯家で隠すと決めたことならエリーのせいではないはずだ。
だからエリーが私に謝るようなことなんて、私にはさっぱり心当たりがなかった。
「ね。エタはツヴェルク家に昔嫁いだ妖精族の姫の子孫でしょ?妖精姫の一族のことはどれぐらい知ってるの?」
「……え?」
だから話を聞く側だと思っていた私が、突然出てきた我が家の先祖の話に一瞬反応できなかったのは仕方ないと思う。
「妖精姫のこと?えっと…所謂蕗の葉の下にいるぐらいの背丈の、あまり強い力も持たない髪も瞳も黒くて小人っぽい種類だったって聞いているわ。彼女の一族の住む集落が、魔獣の群れによって滅びの危機に瀕していた所を初代当主となった騎士に救われて、姫が彼に恋をして結婚したんでしょう?」
「まあ、大体はその通りかな。でも強い力を持たないというのは、一面においては嘘ではないけれど、それだけが真実とは言えないんだ」
「つまり、何か特別な力があるということ?」
我が家に伝わっていたのは主に妖精姫と騎士の恋物語で、姫の一族についてはほとんど伝えられていない。
もしかしたら、当主にはもっと詳しい話が伝えられているのかもしれないけれど、三女である私が知るのはその程度であったし、先祖がえりと言われる私に何も言わないのであれば、両親も長兄も『特別な力』とやらを知らないのかもしれない。
「そう。彼らはね?確かに身体も小さいし筋力も身体に見合った程度しかない。けれど、君も知っている通り精霊魔法の中でも特に植物魔法に長けた一族だ」
「植物魔法……?」
「そうだよ。彼らがいるからこそ、この国は例え瘴気や魔物が現れたり大きな天災が起きた時ですら、深刻な食糧危機になるような不作に見舞われずにすんでいるし、隠れ里は国に保護されている。まあ、これは王家と我がメルカッツ家、そして代々の魔道師長にしか知らされないことなんだけど」
「そ、そうだったんですか?!だから、ご先祖様たちは隠れ里に住んで保護されているんですね」
おおう、なんとビックリそんな大事な力を持っていたのね。
ご先祖様、地味で無力な一族だなんて思っててごめんなさい!
見た目が地味なのは……うん…私とお揃いですね。
「もちろん存在は秘されていても、伝承などでそういう存在がいるらしい…程度には知っている者もいたんだ。ところがある出来事が切欠で、エタの持つその能力に気付いた者たちがいた」
「ちょ、ちょっと待って……私の能力?確かに私は植物魔法を使えるけど、そんな国全体に影響を与える程のご先祖様の一族とは違って私の魔力は余り強くないわ。せいぜい作物の成長を助けたり、品種改良を促すぐらいの弱い魔法しか…」
田舎である実家の領地では領民達から喜ばれる力ではあるけど、学園で一緒だった皆の回復魔法や攻撃魔法のような素晴らしい魔法に比べれば、見た目同様に地味な私の力だ。
人様から狙われるほどの力だとは到底思えないのに。
「エタ、覚えてる?君がプレスクールであのマルクを撃退した日のこと。思い出したくはないだろうけど」
「う、うん。……覚えて、ます」
答えながら、私はギュッと握りつぶされたように胸が痛んだ。
エリーに知られていた。
何をされたかまで知られてはいないかもしれないけれど、マルクに何か無体を働かれたのだと知られていた。
他の誰に知られたとしても、エリーにだけは知られたくなかった。
え?
他の誰に知られたとしても……?
ドウシテ?
ああそうか。
だって……私は、エリーが好きだから。
友達としてだけじゃなく、性別など関係なく1人の人間として、エリーを好き。
好きな人に、他の人からそんなことをされたのだと知られたくなかったのだ。
でも、エリーは?
「例の出来事の時、君は何もない場所に大量のツタを生み出してそれを操ったんだよ?それはいわゆる成長魔法とも違う、君たち一族の妖精特有の植物創生魔法と言われるものなんだ」
「植物創生魔法…」
「そして君が産まれた年以降、この国は豊作が続いている」
「え?それは聖女であるリーゼロッテ様が力に目覚めた年からだと…」
「表向きそういうことになってるけど、実際はエタが生まれてからなんだ。実際豊作になっているのは、ツヴェルグ領を中心に広がっているからね」
私がいるから豊作になっている?
私は特に魔法を使っているわけではないのに、知らないうちに周囲に影響があるなんて言われてもちっともピンとこない。
「だから、あの事件で国が君の力に気付いただけであればまだ良かったんだけど、ある家がその力を欲してエタを手に入れようとした……バイラー侯爵だ」
「え?それってマルクの…」
「そう、あの男の父親だ。だから君を一番近くで護衛するにも、女性の姿で学園に通う予定だった私が一番適任だったってわけ」
その瞬間、先程まで棘のように気になっていたことがパズルのピースがはまったようにストンと納得できた。
納得、できてしまった。
そういう、ことか。
「バイラー侯爵は3年前からずっと己の姿を巧妙に隠し、色々な手段でエタに接触を図ろうとしていた。もちろん私と王家の方で阻止して来たけれど、さすがに彼も狡猾でなかなか尻尾を掴ませなかったんだ」
「エリーと、王家が……?ちっとも気付かなかった…」
「そりゃあ、エタが知ったら怖がるだろうから、私が気付かせないようにしてたからね」
綺麗なウインクを投げて微笑むエリーは、甘い笑みを浮かべているけれど、私は悲しくて苦しくて涙が出そうになるのを必死に堪えて微笑んだ。
そうか。
だからあの日、エリーは私に声をかけてくれたのだ。
私と友達になりたかったからじゃなく、私を……私の能力を保護する為に。
妖精姫を保護するために。
「ありがとう、エリー。ずっと守られてたなんて知らなかった。エリーが一緒に過ごしてくれたからずっと楽しくて、私のいじけた気持ちもずっと救ってもらえてたのに、そんな危険からも守っていてくれたのね……」
「愛している女性を守るのは当然だよ?」
王子様みたいな綺麗な笑みで好きな人からこんな言葉を告げられて、嬉しくない女の子なんていないだろう。
エリーの瞳は真っ直ぐに私を愛おしそうに見つめてくれる。
嘘を言っていると思えないし、思いたくない。
でも、愛してるって本当に?って思ってしまう私がいる。
これまでの3年間が、エリーにとっては仕事のようなものだったのだと知ってしまったから。
私が育んできたエリーを慕う気持ちも、積み重ねた2人の思い出も計算の上の出来事だったとしたら……。
エリーは本当に『私』を愛してるの?
違う。
本当は分かっているのだ。
どうしても胸によぎる不安も疑念も、エリーを信じられないからじゃない。
私自身が『誰かに女性として愛される私』を信じられないから。
バイラー侯爵、ただの色ボケ貴族じゃなかったようです。
そして、エリーのロリコン疑惑はまだ晴れないどころか、能力欲しさの疑惑まで。
エタのうじうじもいつまで続くのか。
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