5、スパイ(1)
「ここがカータンの町かー」
「さすがは南国の国だ。外と同じくらい暑いぜ」
「砂漠は、夜になると急激に気温が下がる。太陽が残っているうちに宿を見つけないといけない」
「でもまだ日の入りまで一時間ちょっとあるナン。だからボクはナンとカレーを見てくるから、宿を探しといてくれナン」
オレたちは関所からここカータンまで、昼食の時間も惜しんで馬を走らせた。そして、なんとか昼のうちにカータンに着くことができた。
「じゃあ、宿を見つけてくるか」
オレたちはぶらぶらと歩き出す。ときどきナオのものと思われる絶叫は、本当に恥ずかしいものだった[おそらく、ナンやカレーを見つけてはしゃいでいるのだろう]。
歩いていると、看板を発見した。
『カータンズ・ホテル』と書いてあった。
「へえ、この立派な建物は町長の家ではなく、ホテルだったのか」
ザーロックがひとりごとのようにつぶやいた。だが、オレは一つ気になるものがあった。
「なあザーロック、ホテルって何だ?」
「ホテルは主に観光客や家族が泊まるところだ。宿と違い、泊まる代金はちょっと高い。だが、そのぶんいいこともたくさんある」
「例えば?」
「いろんな設備が充実しているんだ。部屋が大きく、剣士の訓練場や劇場なんかもある」
「劇場?」
「そうだ。落語をやったり、サーカス団が遊びに来たり、演劇をしたり……。そういったものが行われる場所を劇場というんだ」
「へえ、なるほど。泊まってみようぜ、みんな」
「いいだろう」
オレたちはホテルの中に入った。すごい人の数だ。みんな豪華な服を着ている。あまり剣士などはいないみたいだ。
「お泊りですね。何名様ですか」
「七人です」
「部屋にご案内いたします。食事や劇場を行うときには放送で呼びます」
そして部屋に案内された。行く途中、お数えきれないほどの部屋があり、扉の上には番号がついていた。
オレらが使うのは032号室らしい。
部屋に入ると、まずベットに寝ころんだ。
「くぅー、このベット、ふっかふかだぜ」
「ソレイユ、私はナオを探してくる」
「わかった、ザーロック」
彼は行ってしまった。仕方なくオレとソロイは訓練場へ行ってみることにした。兄さんはもう寝てるし、サリィとソラは語り合っていたからだ。
そこは、数人の剣士がいるだけで、あとは誰もいなかった。
「よし、ソレイユ。久しぶりに戦ってみるか」
「そうだな」
剣をぬいて、ソロイとにらみ合う。
「別にOSGとESBはつけていいんだぞ」
「わかった」
オレはOSGとESBをはめた。
最初にオレが攻撃した。が、防御されてしまった。どんどん攻めていくが、全部防御されてしまう。
「どうしたソレイユ、こんなものか」
オレはスピードを生かして、ソロイの背後にまわった。だが、ソロイはそのまま回転して、[オレは]拳で顔を叩かれた。倒れそうになりながら、なんとかふんばった。
「ほお、倒れないとはな」
「なめてもらっちゃ、困るぜ」
剣を下から上に振る。が、よけられ、がら空きの腹にパンチをくらってしまった。
「ぐはっ、痛い」
「ここまでか、ソレイユ?」
「まだまだ」
そして剣を地面と平行に構える。
「いくぜ! 新必殺技、ライジングタイフーン!」
オレは回った。ESBのおかげで、すごいスピードで回転する。ライジングの雷がオレを包んだ。
「くらえー!」
回転しながら、ソロイのところに行く。だがソロイはしゃがんで足をけってきた。バランスを失い、地面にたたきつけられた。
「くそっ、負けた。目が回る」
「その技は人間には使わないほうがいいぞ。強いが、弱点がありすぎだ」
「例えば?」
「まず上からの攻撃に弱い。そしてさっきもやったように、足も守れない。そして、回転し終わった後の状態だな。すごいスピードだったから、目がすごい回っただろ」
「たしかに」
「その技を使うんだったら、普通に戦ったほうがまだましだ」
おしゃべりをしていると、男が近づいてきた。
「見事な戦いだったよ」
「あんたの名は」
「ウェンス・ヒューチャルだ」
「えっ。まさか『ヘーレゴニーの五騎士』の一人ですか?」
「そうだ」
「ソロイ、こいつを知ってんのか」
「ソレイユは『ヘーレゴニーの五騎士』を知らないのか」
「ああ」
「だったら、私が説明しよう」
ウェンスは話し始めた。
まだヘーレゴニーに帝王が進入していない時代、国王には五人の騎士がいた。
それぞれハック、ロス、センディー、ニス、コロニサーといって、騎士に選ばれた家系は代々この仕事を継ぐ権利があった。
仕事は主に国王と城を守る役目だが、ときどきハイザックへの使節団として活躍したり、ヘーレゴニー中を歩き、町や領地の事件なども積極的に解決していった。
ある日のことだ。城に三人の進入者が現れた。ウシュナルク・オロドム、ナオ・チャン、闇魔界戦士サンドの三人だ。五人の最強の騎士は戦ったが、絶大な魔力で戦闘開始数秒でロスとコロニサーが殺された。城に魔術師が二、三人いたが、どれも歯が立たず、殺されていった。
当時ウェンスの祖先であるハックも必死で戦った。しかし、勝てる可能性が無い戦闘だった。センディーとニスも死に、ハックも両足と片目を失い、殺されるのを待った。
三人が近づいてくるが、殺す気配がない。闇魔界戦士サンドは言った。
「このまま殺されるのも苦であろう。そなたは生きて、帝王様の恐ろしさをヘーレゴニーに広めるがいい」
「テレポート」
ハックはテレポートした。彼はどこかの町の神殿にテレポートした。そして王がつかまり、帝王はヘーレゴニーを支配したのだ。
「その三人の進入者のうち一人の名はナオ・チャンだって言ったよな」
「なんだ、そいつを知っていたのか」
「そうです。ナオは旅の仲間です。まさか、スパイだったのか?」
「おそらくそうだろう。もしや、きみたちはジュエル・ハンターズか」
「オレがそうだけど、ソロイは違うぜ」
「予想だが、ナオ・チャンは宝石の隠された場所の近くにいなかったか」
「あっ」
ウェンスはあごをなでながら言う。
「おそらくこういうことだろう。ナオ・チャンはジュエル・ハンターズじゃないから、宝石を手に入れられないから、そこでジュエル・ハンターズを待ち伏せし、来たら仲間になる。そして宝石を八つ見つけたらジュエル・ハンターズを殺して宝石を奪う。そして帝王に宝石を渡し、さらに支配力を強めるつもりなんだろう。危ないところだったな」
「オレたち……まんまと帝王に利用されそうだったんですね」
「そのようだな」
「でもさ、そこで進入者の一人であるウシュナルクと戦って、殺されそうになったぜ。でもオレたちが死んだら宝石は手に入らない。どういう事なんだ?」
そのとき、別のところから声が聞こえた。
「それはな、あいつは元々負ける役だったんだよ。その戦いでオレ様とお前らの仲間意識を高めようとしたんだよ」
なんと、ナオ・チャンが立っていた。
「くそっ、よくもだましやがったな、ナオ!」
「ははは。作戦は失敗してしまったか。まさかお前らが『ヘーレゴニーの五騎士』の伝説を知ってしまったなんてな」
「殺してやる、ナオ!」
「急いで帝王にこの事を知らせなくてはな」
「待て、ナオ!」
ナオはテレポートして消えてしまった。ソロイはくやしそうに言う。
「ちくしょう、見かけにだまされたな」
「仲間に言わないとな」
「ああ。ところで、ザーロックはどうしたんだろう」
「きっとザーロックも帝王の手下だろ、どうせ。本当に危なかったありがとう、ウェンス」
「力になれてうれしいよ。ところで、きみたちは宝石の謎を知りたくはないかい?」
「えっ」
「ヘーレゴニーには、ルアンパバーンという村があるんだ。そこは古い歴史や知恵深い賢者がいる。宝石やジュエル・ハンターズの事も聞けるかも知れないぞ」
「でもオレたちはマーナリンにも行かなくちゃならないんだ。旅の仲間のソラがそこに用があるみたいだぜ」
「ソラ? もしや、ソラ・ヘーレゴニーなのか?」
「そうだけど」
「大陸の希望が仲間になったか。マーナリンに寄ってからルアンパバーンに行くこともできるが」
「教えてくれ」
「私よりもこの町の町長が知っているから、明日訪ねてみるといい。私が町長にたのんでみるよ」
「わかった」
そろそろ寒くなってきたから、オレたちはウェンスと別れて部屋に戻った。




