6、スパイ(2)
「ええっ! ナオとザーロックが帝王のスパイだった?」
兄さんの声が大きくて、近くで食事していた人間がにらみつけている。今は食事の時間なんだ。
ソロイは夢中でカータンの南国料理を食ってるから、オレがみんなに説明している。
「まさかの展開ね。でもなんであの二人はエルフの森に入れたのかな?」
「きっと、力を隠すのに慣れてたんじゃないか? 剣士だって、熟練した者ならわざと弱いように見せることができるだろ」
「ウェンスがいなければ、私たちは利用され続けていたようね。全くあやしいと疑えなかったわ」
「これで仲間が二人減ったわね」
「明日、町長が説明してくれるみたいだぜ。ルアンパバーンについて」
ピーン ポーン パーン ポーン
『お客様にご連絡いたします。食事がお済みになりましたら、劇場で演劇を行いますので見に来たい方はどうぞご利用ください』
「演劇だってさ。みんな行くか?」
「オレは無理だ。食べすぎてクソがでる」
「ソロイ……」
「オレはちょっとウェンスってやつと話してくる。きっとここに泊まってるだろう」
「兄さんまで」
「私はエルフの長、ラルサーンに連絡しなければいけないわ。だから私も無理です」
「サリィもかよ」
残ってるのは……オレとソラか。
「ソラ、都合は大丈夫か」
「大丈夫よ。じゃあ、早速行こうか!」
「そうだな」
「おっ。始まったぞ」
ステージの幕が開いていく。
「ソラ、今日の劇は何やるんだ」
「えーっと、『アローの心は今どこに』だって。演劇って私も初めてだから、とても楽しみ」
主人公であるアローは、仲間の裏切り者とされ、落ちこんだ彼に手をさしのべた少女との恋愛を描いたストーリーらしい。
いくらか劇を熱心に見ていたが、ナオのことが頭から離れない。
『タッサン、なぜ私を裏切るのだ』
『私には夢がある。それをかなえるために、アローは邪魔なだけだ』
ナオにも夢があるのかな? どうせ、食べ物がからんでくる夢だろう。
『私はタッサンが戻ってくるのを信じてる』
『信じれば信じるほど私はアローから離れていくぞ』
そうだ、そうだ。ナオは戻ってこない。帝王しかナオは信じていないだろう。
いつのまにか、話が進んでアローと仲間が仲直りする場面になっていた。
『戻ってきてくれた。また仲間に入れてくれないかい?』
『いいよアローは私の親友だ』
『おお、タッサン!』
『おお、アロー!』
こんな結末は現実にはありえない。ナオはもう仲間じゃない、敵なんだ。見つけたら、すぐに殺してやる。
最後に今まで登場した人が全員で踊り、今日の演劇は終了した。
「おもしろかったね、ソレイユ」
「ん? ああ、そうだな」
ソラは満足そうにうなずいて、自分の使う部屋に戻った。オレもトイレに行ってから部屋に行く。
戻ると、みんなベットで横になっていた。
オレもすぐにベットで寝てしまった。
ピーン ポーン パーン ポーン
『おはようございます。七時二十分になりました。あと三十分で朝食となりますので、準備をお願いします』
「あー、朝だー」
オレが起きると、すでにみんなは着替えていた。
「ソレイユ。お前も早く用意しろ。食べたらすぐ町長の家に行くから、荷物をまとめとけ」
「わかったよ」
オレたちは食堂に行き、素早く朝食を食べ終わり、素早くこのホテルをあとにした。
町長の家に着くと、ウェンスが立っていた。
「約束通り、来たようだね」
「ああ」
「中にどうぞ。案内するよ」
ウェンスについていき、迷路のように家をさまよい続けた。彼がいなければ、とっくに迷っていただろう。いくつもの階段を経て、ようやく町長のいる部屋までたどりついた。
ウェンスが扉をノックする。
「ウェンス・ヒューチャルです」
「入れ」
中に入ると、元気そうな中年の男がいた。
「私がカータンの町の町長、サブルク・コルティヌです。よろしく」
「オレはソレイユ・ネバルです」
「ソロイ・グラブドです。おはようございます」
「ソレイユの兄、ファース・ネバルです」
「私はサリィ・ハイブラクといいます」
「ソラ・ヘーレゴニーです」
「すでにウェンスから話は聞いている。マーナリンを通ってルアンパバーンに行きたいなら、まずはここから南東にあるギリエド市に向かうといい。その後マーナリン、ヴォストーク、グッグルを通ってルアンパバーンだ。あ、ちなみにネフド砂漠にある洞窟とキングフェアリーがいるアガラス湖には宝物が眠っていると聞いたぞ」
「宝物っていうのは、宝石である可能性が高いな」
「サブルク町長、ありがとうございます。それとウェンスも協力してくれて助かったよ」
「きみたちの旅が成功することを祈っている」
オレたちが行こうとしたとき、ソラが町長に言った。
「名前を聞いて分かったと思いますが、私は現国王の娘です」
「うむ」
「これはあくまで予想ですが、帝王はそろそろヘーレゴニーに戦争をしかけます」
「なっ、なんだと」
「そこで住民にも注意を呼びかけてもらいたいんです。もしかするとこの町も戦場となる場合がありますから」
「わかった。その年で大変な重荷をせおってしまったようだな。私もできるだけ協力しよう」
「ありがとうございます」
そして町長の家を出て、南東のギリエド市を目指して馬を走らせた。




