二人の美少女に挟まれて歩くことになった件
第4話です。
今回は日常+距離変化回です。
ちょっとだけ恋愛要素が入ってきます。
翌日。
まだ朝だというのに、学院は妙に騒がしかった。
視線が多い。
廊下を歩くだけで、それが分かる。
「あの人……」
「昨日の……」
小さな声が、あちこちから聞こえてくる。
——面倒だな。
俺は気にせず歩く。
こういうのは放っておけばそのうち消える。
「……いた」
後ろから、小さな声がした。
振り返るまでもない。
「おはようございます!」
少し弾んだ声。
ルナだ。
「早いな」
「はい!」
ルナはすぐ隣に並ぶ。
少しだけ距離が近い。
「昨日の、すごかったです!」
「そうか」
「はい! エリスさんが、あんなふうに……」
そこまで言って、ルナは少しだけ言葉を止めた。
「……なんか、変でした」
「変?」
「はい」
ルナは少し考えてから言う。
「嬉しそう、というか……」
「楽しそう、というか……」
——ああ。
「そういうもんだ」
俺はそれだけ答えた。
「できなかったことが、できるようになる」
「それだけで十分だ」
「……はい」
ルナはうなずく。
その横顔は、どこか少しだけ柔らかい。
しばらく歩く。
「……あの」
ルナが、少しだけ小さな声で言った。
「今日も、来ますよね?」
「ああ」
「……よかった」
ほんの一瞬、表情がほどける。
——分かりやすいな。
そのとき。
「……朝からずいぶん仲がいいのね」
冷たい声が割り込んだ。
足が止まる。
見なくても分かる。
「エリスか」
「ええ」
前に立っていた。
昨日と同じ制服。
だが、視線が違う。
まっすぐこちらを見ている。
逃げも、迷いもない。
「来たわ」
短く言う。
「言われた通り」
「そうか」
「えっと……」
ルナが少し戸惑ったようにエリスを見る。
空気が、わずかに張る。
「……何?」
エリスがルナを見る。
少しだけ棘のある視線。
「い、いえ……」
ルナは慌てて首を振る。
「なんでもないです」
「そう」
それだけ言って、エリスは再び俺を見る。
一歩、近づく。
「……今日もやるんでしょ」
「続き」
「ああ」
「なら」
エリスは一瞬だけ言葉を止めた。
ほんのわずかに、視線が揺れる。
「……ちゃんと見てて」
「昨日みたいに」
ルナが小さく息を呑む。
俺は特に気にせず答える。
「見るに決まってるだろ」
「教えてるんだからな」
「……そう」
エリスは短く返す。
だが、その声は昨日よりもわずかに柔らかい。
——変わったな。
ルナが、ちらりとこちらを見る。
何かを言いたそうにして、
結局、何も言わない。
「行くぞ」
俺が歩き出すと、
二人が自然についてくる。
左にルナ。
右にエリス。
無言のまま、歩く。
だが——
空気は、昨日とは違っていた。
静かに、
少しだけ、
変わり始めている。
教室に入ると、昨日よりも人が増えていた。
明らかに見物だ。
「……まだいるのか」
俺は気にせず前に出る。
「やるぞ」
エリスがすぐに前に出た。
昨日より迷いがない。
「昨日の続きよ」
「ああ」
「まずは“形”」
「小さく」
エリスは静かにうなずく。
目を閉じる。
呼吸を整える。
そして——
手の上に、火が灯る。
小さい。
だが、安定している。
「……できてる」
ルナが小さく呟いた。
「ああ」
俺は短く返す。
「そのまま“流れ”を作れ」
エリスの指先が、わずかに動く。
火が、ゆっくりと回り始める。
揺れない。
崩れない。
「次」
「少しだけ、増やす」
エリスは集中したまま、力を込める。
火が、ひと回り大きくなる。
それでも形は崩れない。
「……っ」
周囲がざわつく。
昨日とは明らかに違う。
「いい」
俺は一歩近づく。
「そのまま維持しろ」
「……はい」
エリスの声が、わずかに変わる。
反発ではない。
素直な応答。
——早いな。
「少しだけ、出力を上げる」
「崩すなよ」
「……分かってる」
エリスは小さく息を吸う。
火が、さらに強くなる。
それでも——
崩れない。
「……できてる」
今度は、エリス自身が呟いた。
その瞬間。
ふっと、集中が切れた。
火が、わずかに揺れる。
「っ……」
エリスの体が、ぐらりと傾く。
「危ない」
ルナが思わず声を上げる。
俺はすぐに手を伸ばした。
エリスの手首を、軽く掴む。
「力抜け」
「呼吸」
「……っ」
エリスの動きが止まる。
呼吸が整う。
火が、すっと安定する。
数秒。
そのまま維持して——
やがて、消えた。
静寂。
「……今の」
エリスが、小さく言う。
「崩れかけた」
「ああ」
「原因は?」
「意識だな」
俺は手を離す。
「“できてる”と思った瞬間、崩れた」
「……」
エリスは黙る。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「……確かに」
その様子を、ルナがじっと見ている。
さっきの一瞬。
俺がエリスに触れた場面。
「……」
何かを言いかけて、やめる。
視線が、ほんの少しだけ揺れる。
「もう一回やる」
エリスが言った。
「今度は崩さない」
「ああ」
俺はうなずく。
エリスが再び手を上げる。
その横で、ルナが少しだけ距離を詰めた。
何も言わない。
ただ、少しだけ近い。
——分かりやすい。
俺は気にせず、エリスを見る。
「始めろ」
小さな火が、再び灯った。
小さな火が、再び灯る。
今度は——揺れない。
エリスの呼吸は一定で、
視線もぶれない。
「……そのまま」
俺は短く言う。
火は安定したまま、
ゆっくりと回り始める。
形は崩れない。
「増やす」
エリスが、自分で判断して力を込める。
火が大きくなる。
それでも——
崩れない。
「……できた」
小さく、だがはっきりとした声。
周囲が静まり返る。
「ああ」
俺はうなずく。
「それが基準だ」
「……基準」
エリスが、その言葉を繰り返す。
「そう」
「そこから上げていく」
「……」
エリスは、自分の手をじっと見つめた。
そして——
ゆっくりと、顔を上げる。
「……できる」
その声には、迷いがなかった。
「できるわ」
俺はそれ以上何も言わない。
言う必要もない。
「今日はここまでだ」
俺がそう言うと、教室の空気が緩む。
だが——
「待って」
エリスがすぐに言った。
足を止める。
「……明日も」
少しだけ言葉を選ぶようにして、
「……来るわよね」
俺は振り返る。
「来る」
「当たり前だ」
「教えてるんだからな」
「……そう」
エリスは短く返す。
だが、その視線は外れない。
ほんの一瞬だけ、
何かを確かめるように、こちらを見る。
「……ちゃんと」
小さく、続ける。
「私のこと、見てて」
ルナの肩が、ぴくりと動く。
空気が、わずかに張る。
「見るに決まってるだろ」
俺は何も考えずに答えた。
「教えてる間はな」
「……そう」
エリスはそれだけ言って、
視線を外した。
だが、ほんの少しだけ——
口元が緩んでいた。
「……帰りますか」
ルナが小さく言う。
さっきより、少しだけ距離が近い。
「ああ」
俺は歩き出す。
廊下に出ると、
夕方の光が差し込んでいた。
そのまま歩く。
左にルナ。
右にエリス。
無言。
だが——
二人の距離は、昨日よりも確実に近い。
そして、
互いに、わずかに意識している。
——まあ、いい。
俺には関係ない。
やることは一つだ。
「明日もやるぞ」
それだけ言う。
二人が、同時にうなずいた。
夕焼けの中、
三人で歩く。
静かに、
少しずつ——
関係が、形になり始めていた。
読んでいただきありがとうございます!
今回は距離が近くなる回でした。
少しずつ関係も動き始めています。
ここからどうなるか、引き続き見てもらえたら嬉しいです!




