表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/109

ep.81

ある昼下がり。私は極北の地に赴いていた。

これまでは瓦礫から発掘された魔道具や資料の解析を行うのが主目的だったが、今回はこれと少し異なる。平時は魔法使いの中でも研究職の方々が多くみられるこの地に、今は一目見ただけでも只物ではないと思わせる雰囲気を纏った人間がずらりと並んでいた。その理由は、まさに今目の前に広がる果てしない海に起因するものだ。

極北が、王家、ギフテッド、以南地域を敵視していたことは昨今では周知の事実だが、その理由に関しては様々な分野からの意見があり、未だこれと言って確証のあるものはない。

しかし、その中でも一歩先んじている暫定的な考察として『極北の立地上、そうならざるを得ない』というものがある。というのも、極北は南に禁足地の森と険しい山岳、北に魔獣が湧き出る海を持っており、魔法で武装するか、周りから協力を受けるかしないとものの数週間で崩壊してしまえるという弱点があった。

記録によると、約千年から五百年前には、王家やギフテッドが積極的に軍を派遣して協力体制を敷いていたが、ある時点を境に、それが全てばっさりと無くなってしまったらしい。特に興味深いのは、この非協力的な関係の構築にあたって、より能動的に動いたのは極北だった、という点だ。つまり、王家やギフテッドが協力しなくなったのではなく、極北が自らその協力を蹴って孤立していったということになる。

これについてもいくつか考察されているが、”結界魔法”を始めとする『対ギフテッド作戦』の始動時期がこの千年から五百年という時期に丁度合致するため、ギフテッドを抹消する、或いはその正当性を説明しなくてもいい、より独裁的な環境を作るためだったというのが通説だ。事実、滅びる寸前のオルゼルド家は王家とギフテッドの干渉を一切受けずに存在していたので、逆説的に考えてもこの説が一番説得力がある。

しかしここにきて新たな疑問が浮かぶ。それは、なぜオルゼルド家は孤立してでもギフテッドの存在を消したかったのか、というものだ。極北にて研究が始められた当初は、王家とギフテッドの二大権力の構造を無理矢理破壊するため、というものが通説だったが、最近出土した資料により、それは完全に否定された。

他の何よりも私のせいで、破れていたり、焦げていたりする資料を何とか解読していくと、ギフテッドの存在そのものが極北を苦しめているということが分かった。

極北の北に位置するこの海からはかなり危険な魔獣がわらわらと出てくるのだが、その魔獣たちの強さとギフテッドの強さには相関関係があったのだ。その対応に苦しめられ、なんなら時代によってはギフテッドや王家が協力してくれない、ということもあって、オルゼルド家はこれまでの長い歴史を持った協力関係を解消し、その根源であるギフテッドを消し去るという根本的な解決に走った。

結果は見ての通りだ。目の前には相当な数の魔獣が海を割るようにして進撃してきているし、その対処についても一国を挙げて人員を割いている。


―しかし


「始めッ!!」


グラードさんの怒号のような声を合図に私も魔力を練り、攻撃を始める。

魔獣たちは私の魔法で半数ほど吹き飛ばされ、もう半数は招集された魔法使いのべ五十人弱の魔法によって蹴散らされた。

あっけなく作戦は終わり、準備段階では緊迫感のあった空気が一瞬にして霧散した。この手ごたえを見るに、現時点のギフテッドは正しく”封印された”ということになる。普通、この海から来る魔獣は、この何倍も強く、この何倍も多い。しかし今、ギフテッドであるラズさんがセギリアによって完全に停止しているせいで、それに比例する形で魔獣も弱くなっている。

これを、良い事だと捉えるか、悪いことだと捉えるか。...考えるまでもない。

私はもう役目を終えたとみるやいなや、この作戦に参加している唯一の学生の元へと歩いた。


「お疲れ様です。怪我はありませんか」

「おっ、マリエルだ。今朝ぶりだね」


この作戦は、上から、イレギュラー、魔導士、一級魔法使い、二級魔法使いの上澄みが参加しているが、そのどれでもないフェリアは実力を鑑みて必要だと判断されたようで、魔学院の学生でありながら、グラン王国屈指の大規模狩猟に赴いていた。

余裕そうな笑みを湛えているが、中でも高位の魔獣が放った魔法に被弾していないかと心配になる。フェリアになにかあったらと思うと呼吸が浅くなった。もう、誰かを失うのは嫌だ。いや、他の誰でもない、フェリアを失うのは嫌だ。


「はい。で、怪我は」


呆れるようにフェリアは言う。


「怪我も何も、そもそも接敵する前に片づけたようなものなんだから、無事に決まってるじゃない」

「...そうですか」

「この後は病院?」

「そう...ですね。寄ってから帰ります」

「夕食はどうしようか?いつも通りでもいいし、どこかに食べに行ってもいいよ?」

「えっと...フェリアに、任せます」

「んー...じゃあ今日は家で食べようか。野菜もちょっと疲れてきてるし」

「分かりました」


こくりと頷くと、フェリアは私の肩をポンと叩いた。


「じゃ、私はこのあと魔学院に報告しなきゃだから、またあとで」


そのままたったったと帰り道を急ぐ背中に、私は「はい。あとで」と恐らくは聞こえていないだろう声で呟いた。

ブックマークして頂けるとモチベになります<(_ _)>

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ