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ep.33

―ゴンゴンゴンゴンゴン!!


ある日の夜。夜中に一歩届かない時間に私たちは遅めの夕食を取っていた。

今日も今日とて『うまいうまい』と言いながら物凄い速度で食べ終えてしまったラズさんと、それにギリギリ追いつくように量を調整していた私が食後の満足感もそこそこに後片付けをし始めた頃、突然扉が叩かれた。

途端にラズさんの顔がほんの少しだけ引き締まり、持っていたお皿を机に戻すと「申し訳ないんだがやっといてくれるか?多分緊急だ」と切迫したように言った。

了承を伝えると、どたどたと小走りに玄関に向かって行った。

扉が叩かれる音は恐らく私以外の人でも聞いただけで状況がひっ迫していることが分かるものだったのでギフテッドに頼らなければいけないような問題が国内で起こってしまったのだろう。

この数か月間で任務と言って家を空けることは多々あれど今回のようなことは一度もなかっただけに少しだけ心配になる。

片付けを終え、ソファの上で言い知れぬ不安を抱えていると、話し終えたラズさんが帰ってきた。


「なんでした?」

「西の方で魔獣が異常発生したんだとよ。量が量だから俺に話が回ってきたらしい」

「なるほど」

「で、提案なんだけどさ」

「はい」

「一緒に行かね?任務」

「...はい?」


西の地域で魔獣が大量発生し、それは対応にギフテッドが駆り出されるような物で、付け加えるなら緊急の案件。そこに私が同行と言うのはどういった了見だろうか。

冗談抜きに足手まといになる未来しか見えない。


「お仕事見学ってとこだな。今朝の練習で雷の魔法で躓いてるみたいだったし、お手本を見せてやる」

「あの、私が行ってもいいんでしょうか...その、足手まといにしかなりませんが」

「大丈夫。ギフテッド様を舐めんなよ?こんなもんは小遣い稼ぎだ」


自分の力不足にじわじわと無力感が広がっていた私に、ラズさんは不敵に笑って見せた。


―その笑顔に、私はただ、ただ焦がれた。



ガタゴトと整備のされ切っていない道を車輪が撫でる音だけが馬車の中に響いた。

私はラズさんと供に以北地域西区で異常発生した魔獣の対処に向かっている。

緊急の事だったので空いている馬車が少なかったらしく、中でもいいものを持ってきたそうだが、お世辞にも座り心地が良いとは言えない座席の上で何時間も座り続けていると体の節々が痛んだ。

隣のラズさんはと言うとのんきな顔でこくりこくりと舟を漕いでいる。

昨日は何やら難しい顔で本を読んでいてあまり寝ていないようだったのでその反動が来ているのだろう。

にしたって恐らく国の有事といって差し支えない状況下で、その対処を任された身でありながら居眠りをするというのは図太いとしか言いようがないが。

お隣の大物への呆れと自分に向けた俯瞰を込めて一つため息をつくと、規則的に鳴っていた車輪の音がだんだんとそのペースを落としていった。

やがてそれは完全に停止し、御者が目的地に着いたことを伝えてくれた。

ラズさんの腕を引っ張りながら「師匠!着きましたよ!」と大きく揺さぶると、少しの間は焦点の合っていない目でどことも分からない場所を見ていたが、やがて意識が浮上してきたようであくびをしながら「んじゃ、行きますか」と音が鳴りそうなほど重そうに腰を上げた。


馬車の止まった場所から少し歩いた小高い丘から件の地域を見下ろすと、そこは一帯の森林が広がっていたのだが、なにか只事ではない雰囲気と魔力を持った生物が一体になって移動している事が分かる。

恐る恐る魔力検知で確認してみると夥しいほどの魔獣が確認できた。

それは点と点が重なりすぎた結果、一面を塗りつぶしたように映り、視界に映る風景こそただの森だったが魔力検知から見えるものは正しく(まさしく)魔力の海だった。


「さて」


ラズさんは状況に飲まれ思考が留まらない私と対照的に、こういっては何だがあまり物を考えていないようだ。

しかし、それは全くもって愚かなものではなく、私のそれが未経験からくる焦りだとすればラズさんのそれは豊富な経験と絶対的な自信に裏付けられた余裕だった。

ラズさんはラズさんで状況を確認し終えたらしく、然るべき魔法を撃つための魔力を練り始めた。


「魔法っていうのはそれぞれの属性で形状に関わらず特性を持ってるんだ。それはその属性を極めれば極めるほど顕著に表れる。火なら”破壊の不可侵”。水なら”侵入と支配”。風は”指向の限定”。氷は”停止の強制”。そんで雷は”時空無視の破壊”。火が『一度発動すれば何があっても止まらない不可侵の破壊』だとすれば雷は『発動した時点で破壊が終了する不可避の理不尽』ってとこだな。んで、これはどのレベルで魔法を出すときもこのイメージが在るか無いかで雲泥の差がある。ってのも魔力の入り方にまんま関わってくるからな。そのテンポみたい物を掴むにはこのイメージが不可欠ってわけ」

「な、なるほど」


私に説明する傍ら、ラズさんは目を見張る速度で魔力を集めていった。

それはいつかに私の魔力をテストする目的で見たものとは桁違いのもので、滑らかさ、緻密さは一切違えないばかりか一層洗練されたまま、空恐ろしい速度で前回の何倍という単位の魔力を集積させていく様は、魔法を扱う者、ひいては魔力を持つ者にとって根源的な恐怖を呼び起こす物だった。

あっという間に臨界点ギリギリまで魔力を集めたラズさんは「よく見てな」と一言。おそらくここから雷の魔法に加工していくから見て盗めという事だろう。

言われた通り、全身の魔力を感知できるもの全てを集中させて注視すると、雷の式の展開までは私と何ら変わりなかったが、魔法陣に魔力を入れる作業が恐ろしく早いことに気づいた。

ここに関してはいつもの緻密さはなりを潜め、一度に入れられるだけの魔力を入れた様に見えた。

これが恐らく雷という属性の持つ特性に基づいたイメージを反映した結果なのだろう。

魔力は現実世界に干渉しないはずだったが、ラズさんによって加工された魔力は内包された破壊力に見合った威圧感のようなものを放っていて、荒れ狂う雨の音や吹き荒れる風の音が幻聴として聞こえた。

両の手をローブのポケットに突っ込んでいたラズさんだったが、私が畏れているのを見て少し相好を崩した後安心させるように私の頭の上に手を置いた。


「お前、聴覚過敏だろ。耳塞いどけ」


確かラズさんに聴覚過敏であることは明かしていなかったはずだがこの何か月かを一緒に過ごす中で気づいたらしい。

言われた通りに耳をしっかりと塞ぐと、ラズさんは私の頭の上にない方の手を持ち上げ、短い呟きとともに握った。


「ジャッジメント」


―ガァァァァァァァン!!!!!


耳を劈く様な鋭い破壊の余波が響いた後、ゴロゴロと追撃の様に薄い電流が森全体を駆け巡った。

ラズさんの使った、恐らく名を”ジャッジメント”という魔法は、眼下に広がる、いや広がっていた森の端と端に巨大な魔法陣を展開し、その間隙を一瞬で全て塗りつぶした。文字通り雑草の一つも残さずに。

魔法を少し齧った人間として、これと同じ事とは言わずにこれの半分の事が出来る人間がいるかと聞かれれば、答えは絶対に否だ。

これを言わせるのは知識ではなく、むしろそれは思考ですらなく、もっぱら感覚なのだろう。

今まで漠然とラズさんの、ひいてはギフテッドの実力と言うものは頭一つ抜けているという事を認識していたが、改めて見てみると、むしろなぜ私ごときが無茶苦茶だと呆れられなければいけないのか問い詰めたくなるほどだ。


「よーし。終わり終わり。コツは掴めそうか?」

「はい。師匠の言ってることもなんとなく分かりました」

「なら良かった。...折角ここまで来たんだし観光してから帰るか?明日は...休日か。なんか予定ある?」

「いえ!無いです無いです!!」


なんとラズさんはこのまま観光をするらしい。

西区に関してはあまり話題にも上がらなかったので全くの未知だがラズさんと周るのならただの原っぱでも楽しいし問題ないだろう。

むしろ主目的がここまであっさり終わってしまうと、魔獣の掃討にかこつけて遠出したかっただけなのではとすら思えてくる。


「んじゃ、今日はもう遅いしどっかの宿屋に泊まって、明日観光して満足したら帰るって感じでどう?」

「お、おとまり...!」

「...良さそうだな」


お泊りという事はもう半分ぐらい旅行なのでは?

いや、別に毎日同じ家で寝ているわけでそれそのものが特別かと言われれば全くそんなことは無いのだが、事実として特別という事と特別感があるかどうかというのは全くの別問題である。

旅先でお泊りというのは特別感という観点で言えば、百点満点だろう。

私は無意識にわくわくとかんばせを躍らせていたらしく、ラズさんは微笑ましそうな優しい顔で笑った後、なぜか少し困ったように頭を撫でた。

何故そんな顔をするのかと聞きたかったが、ふと無音が耳を刺し、声を発することは叶わなかった。


「宿、探し行くか」

「はい」


ラズさんは満足したのか再び両の手をポケットに入れ、薄暗い道を歩き始めた。

いつもならすぐ隣を体が触れるか触れないかといった距離で歩くのだが、今日は何故だか隣に行くのがはばかられて、私はラズさんの隣からほんの少し後ろを歩いた。

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