ep.31
「お前な」
「すみませんすみませんすみません」
先日、オリジナルの魔法を作ったまでは良かったのだが、試し打ちの際に出力の調整を完全に間違えたせいで魔法院の修練場を半壊させるという大事件を起こした私は、やはりというか案の定というか、任務から帰ってきたラズさんに叱られていた。
もちろん当時ガブエラさんと一緒に関係者の方々へ謝罪周りをした時も緊張したが、如何せん少し日が空いた事とお叱りを受けることが確定していたためにこの三日間は気が気じゃなかった。
帰ってきたラズさんは荷物を置いて楽な恰好に着替えた後、ちいさなむしけらのようになっている私をリビングに呼び出した。
「いや、言いたいことは本当に山ほどある。けど一旦それは置いといて、だ」
「はい」
「迷惑かけた人にはちゃんと謝ったか?」
「はい。ガブエラさんが同伴してくれて、これから迷惑をかけるかもしれない方の所にもいきました」
「ガブがやってくれたんならまぁそこらへんは大丈夫か...」
「だといいんですが...」
ラズさんはガブエラさんの名前を聞いて、途端にほっとしたような顔をした。ガブエラさんのことは相当に信頼しているようだ。
ラズさんは少し考える素振りをした後、見透かす様な視線で私を見た。
「反省してるな?」
「それはもうとっても、です」
「ん。そうだなぁ...今回は初めて撃ってみたってのもあるだろうしな。お前の事だから今回ので調整の感覚は掴んだろ?」
「えっと、最低限今回みたいなことにはならないと思います」
「なら良し」
ラズさんはそう言って空気を切り替えるようにぱちんと手を叩いた。
てっきり物凄く怒られると思っていたので肩透かしを食らったような顔をしている私にラズさんは微笑みにほんの少しだけ呆れを混ぜたような顔で「んで、今回の詳細を聞いとこうか」と言った。
「詳細、というと魔法の事ですよね?」
「そう」
「えっと、師匠に買ってもらった参考書に魔法が創れるってことがさらっとだけ書いてあって、この一週間は暇になりそうだったのもあって作ってみようとしたら出来ちゃったので、それの試し打ちをしたらこんな事になっちゃいました」
「よりにもよって魔法の創造かよ...」
私の話を聞くにつれ、どんどんと青くなっていったラズさんは、ついぞ頭を抱えてうなだれてしまった。
怒られるかは別にしても、またもや何かやらかしたことに変わりないらしい。
「なぁ、前に魔法使いの階級について話したことあったよな?」
「はい」
「一番上は何だか分かるか?」
「えっと、魔導士、でしたよね?」
「うん、正解。魔導士ってのは読んで字の如く魔法を導く者って意味で贈られる称号みたいなもんで、世間体的には階級として使われるんだが、本質的にはただの勲章なんだよな」
「なるほど?」
「で、肝心の魔導士へのなり方なんだが」
ここでラズさんはため息を一つ。
「まさにお前が先日やった魔法の創造がそれにあたる」
「へ...?」
「ってことで申請すればいつでも魔導士になれるぞ」
開いた口が塞がらなかった。
恐らく相当にみっともない顔を晒している事だろうが事が事なので構っている暇はない。見習いどころか魔法使いすらすっ飛ばして最高位の魔導士とは。
正直なところ微塵もうれしくない。
確かに魔法の創造は難しかったしそこそこ苦労をしたのは否めないが、正式な手段を全て飛び級する事とつり合いが取れるかと言えば答えは否だ。それに魔導士になってしまえばラズさんの弟子ではなくなってしまう。見習いどころか魔法使いですらないのだからむしろ弟子を取る側になってしまいそうだ。弟子を取れと言われても私には魔法の知識こそあれど経験が全くないので教えられることがほぼ無い。それ以前に、私個人の気持ちとして誰かにモノを説くという立場になるのが嫌だった。
「えっと、迷惑じゃなければ、まだ師匠の弟子でいたいです」
「まぁ、そう言うかなとは思ったが」
「はい。その、魔導士になったら弟子を取ったりしないといけないでしょう?私は誰かの師匠になれるほど魔法について知りませんし、何よりも先に私は師匠の弟子なので誰かの師匠になるような余裕がないというか...」
「分かった分かった。じゃあそうだな...今回の魔法は正規の魔法ってことにしよう。まぁそんなに根掘り葉掘り聞く輩はいないだろうし、そもそもオリジナルの魔法だなんて視野にすら入ってないと思うから誤魔化すのはそこまで難しくないと思う」
「はい」
私がラズさんの弟子でいたいと言うと、ラズさんからほんの少しだけほっとしたような音がした。
なんなんだろうと首を傾げていると、「さて」とラズさんが立ち上がる。
「ハプニングはこそあれど気を取り直してもらいまして、これからは正規の魔法について学んでもらいます」
「はい」
「基本的には魔獣を狩って実践を積むのをメインにしつつ、つまずいた所で適宜教えていくって感じ」
「なるほど」
「んで、最初は魔法の出し方とかコツを二人で練習します」
「おぉ...!」
思わず”二人で”と言う言葉に目を輝かせた私に、ラズさんは酷く怪訝そうな視線を向けてくる。
「あ、なんでもないです、続けてください」
「お、おう。...えーと、練習していって、攻撃魔法が安定して出せるようになったら依頼を受けに行くんだけど、その依頼で一定以上の実力が認められれば魔法院から昇級試験の通達が来る。これは受けるも受けないも自由だけど実力的に受かりそうなのであれば受けることをお勧めする。階級によって受けられる依頼の幅も給与も全然変わってくるし、平たい言い方にはなるけど魔法使いで昇級するってことはすなわち身分が上がるってことだからな」
「分かりました」
「その試験を何個か突破して、最終試験に合格したら晴れて弟子は卒業だな。お前の場合はそのタイミングで魔導士の申請すれば魔法使いを飛ばせるから一息に俺と同僚になるわけだ」
「は、はい...」
極自然な流れで、私が今魔導士の申請を渋った理由の本質がラズさんの弟子でいたいという想いだということが暴かれたような気がして、私は堪らず頭を押さえて俯いた。
多分ラズさんは意識的に言ったわけではないのだろうが、むしろそちらの方が恥ずかしい。わざわざ考えずともラズさんの頭の中では、というかまさにその通りなのだが、私がラズさんと一緒にいたいと思っていることが当たり前になっているのがなんだかとても居た堪れない。というか、ただの言葉一つでこんなにもやきもきしてしまう事それ自体も、なんだか浮かれあがっているみたいで恥ずかしい。
この頃私はおかしいのだ。
ほんの少し前であれば、ラズさんにそういったように思われていようがあまり気にしなかった。
それこそ『事実ですし』なんて澄まして、尤もなことを言いそうなものだが、最近それがどうにも上手くいかない。
本当に些細な事でもラズさんに関することであれば過剰に反応してしまって体がむず痒くなったり、胸が詰まったような心地がする。
「ぶっちゃけ、俺と同じ任務に来れるやつが少なくてさぁ、最近だとガブと...まぁ後一人くらいなもんなんだよ。だから―
「待ってください待ってください!」
今しれっとガブエラさんの名前が出た気がするのだが気のせいだろうか。
ガブエラさんはお医者さんであって魔法使いではなかったはずでは...?
「ん?あぁ、ガブは魔導士だぞ。諸説あるが、ギフテッドの俺を除けば一番強いかもな」
「えぇぇぇぇ!?」
なんでもできるというのは『人よりも高水準ですべての事が出来る』と言う意味ではなく文字通りすべての事を第一線級にできてしまうという意味らしい。
「私の周りの人の水準がおかしい気がします...」
「類は友を呼ぶってやつだな。身から出た錆ともいう」
「そんなぁ」
「まぁ、それはいいとしてだ。俺としては嬉しいわけよ。身近な奴と一緒に任務に行けるってのは」
「が、がんばります」
しれっと私を身近な奴判定していることにほんの少しだけ動悸が上がったが、まぁ弟子だし当然だろう。何なら一緒に暮らしているわけで、近い人間として扱ってくれるのは当然と言えば当然だ。
しかし何故だか、むず痒い様な嬉しさと、どこから来たのかわからないわだかまりが胸に残った。
「あ、時間も時間ですしご飯にしましょうか」
「めし!!」
私がご飯と言うとラズさんはまるで条件反射の如くばっと立ち上がって目を輝かせた。
「そ、そんなにです?」
「なんだかんだ言って一週間も空いたからな。この一週間で思い至ったが、どこの飯よりもお前の飯が美味い。誇張抜きでお前のが一番だ」
恥ずかしげもなく綴られた言葉に私は顔を背けるので精一杯だった。
「そ、そうですか。久しぶりですし、リクエストありますか?」
「ん-、肉食いたい。肉なら何でもいいや。なんでも美味いし」
「んぁーー...!分かりました!失礼します!」
追い打ちとばかりの言葉が胸にぐさりと突き刺さったような心地がした。
私はどたどたとキッチンに逃げこんで、張り裂けんばかりの鼓動と隠しようもなく上気した顔をラズさんに見られていない事だけを切に祈った。
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