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ep.30

私がラズさんに拾われてから早一か月がたった。

今日は参考書を買いに外に出ていた。

ラズさんに買ってもらった参考書はすべて読み終えたし、その後に行った確認テストでも全てつっかえる事なく答えられたので内容の理解は完璧と言っていい。勉強を始めた最初の一週間こそ速いペースで詰め込んでいたが、ラズさんがあまりに心配するので控えることにした。それもあり、進捗的には最初の一週間で八割、後の二週間で二割といったペースになってしまったが、これも悪くないかもしれない。進度を遅くすると、最初のほうにやったことがどうしても抜け落ちていくため、それを埋めるようにもう一度勉強し、さらに進度が遅くなる。一見するとよくない事のように見えるが、進度を遅くする、もう一度勉強する、という事は知識の長期的な定着に非常に効果的だった。何より、体を休ませながら勉強できるし、生活が勉強一色になってしまわないので心にゆとりができて、単位量あたりの能率が上がる。

ただ、正直これらの理由がなくともラズさんがやるなと言うなら私は控えていただろう。

あの時の真っ直ぐに心配してくるラズさんの視線が今でも忘れられない。

初めての感覚だった。

私の人生の中では、感情が飽和してしまって呆けてしまったり、感情を形容しがたいといったことは多々あった。時折、私の持つ語彙力や感受性の外側から刺激を受けて、情報が処理できなくなってしまうのだ。

あの時の感情もそれに近いのだが、抱えていた、いわば感情の矛盾とでも言うべきものが、他のものとは似ても似つかない心地がした。

矛盾した状態がまるで正しい形かのような。

そう。考えていることは真逆で矛盾しているのに、全体でみるとやけにしっくりくるような。


―あれは何だったんだろう。


それはさておき、あの時のラズさんが理由はどうであれ、攻撃力が高かったのは事実である。

ああなってしまったラズさんには敵わないというのが今回得た教訓だ。あの時の私には『ハイ』以外の選択肢はなかったように思う。例えいくら勉強の効率が下がろうとも、あの場で私が我を通す選択肢はなかった。


そんなこんなで参考書を読了した私だが、またもや参考書を買いに来ているのには理由がある。これはラズさんに言われたわけではなく、あくまで個人的なものだ。

ラズさんによれば、細かな部分や専門知識、経験からくる参考書には書かないような事柄などの知識をいったん無視すれば、魔法についての知識はあの本一冊でほぼ入っているらしい。

なので方針としては、別の参考書を買って、また知識を詰め込むというよりかは、実践的に魔法を使ったりだとか、魔法で魔獣駆除をしてみたり、というのが一般的な方法だそう。

ラズさんもその通り進めるようなので、次からは魔法の実際の扱い方や細かいコツを教えたり、魔法を打ち合ったりするとのこと。

しかし、それとはまったく別で、個人的に気になった専門知識があった。

それは『魔法の創造』だ。

ここで言う魔法の創造とは、総称としての魔法ではなく、例えば火球の魔法であったり、風刃の魔法であったりの事である。

それらが、非効率ではあるものの、自分で作れるという事が参考書にあっさりとだけ乗っていた。

つまるところ、今日は『魔法の創造』に関しての専門的な参考書を買いに来たというわけだ。


ようやく春が訪れたのか、日差しはぽかぽかと温かく、それでいて吹き付ける風はまだほんのりと冬の香りを残していて、うっすらと上気した肌を心地よく冷ましてくれる。

紛うことなき絶好のお出かけ日和だ。

今日は休日だったので通常時であればラズさんとゆっくり過ごすはずだったのだが、数日前からラズさんは任務で遠方に出払っており家を空けていた。

ラズさんが『これからって言うときに申し訳ない』『一週間ぐらいで帰ってくるから家を頼む』と言って行ってしまったのは四日前の事なので後三日は帰ってこないことになる。

さみしい。

それはもう淋しい淋しい。

ほんの一か月前はこんなことを思うような我が儘な性格ではなかったはずだ。

ラズさんは帰ってくるのだからと、ラズさんとのつながり自体を重んじて、一人の時間にも耐えられた。

それが今となってはどうだろうか。

少しでも暇になれば「師匠早く帰ってこないかなぁ」なんて考えてしまう私は変わってしまったのだろうか。


つらつらと考えながら歩いていると、目的の書店に着いていた。

私は頭をふるふると振って鬱屈とし始めた思考を振り払った。





「できた...!!」


私の右手には『イチから分かる魔法の創造』と書かれた参考書。

ラズさんが帰ってくるまでに完成させたかった魔法がついに完成したのだ。

魔法の創造はそれそのものが魔法のようなもので、言うなれば”魔法を作る魔法”なわけだが、この難易度が異常も異常なのである。

そもそも必要な魔力量が目を疑う程で、人によっては一生かかっても作れるかどうか、というかなり突飛な話だ。

私は魔力の底が無いらしいが、出力は青天井ではないため、丸々二日、魔力をひたすらつぎ込む羽目になった。


「よし...後は試し打ちかな」


理論的にいくら完成していたとて、実物を見ないというのは宜しくないだろう。

正直、連日魔力を使い込んでいたのでほんの少しだけ疲れていたが、実物を見てみたいという好奇心が先行したので、私は掛けてあるローブを羽織って外に出た。




外に出たのはいいものの、私が知る試し打ちができる場所は例の荒野しかない。

例の荒野につながる転移門への行き方を知っている人のあてはラズさんがいない今一人しかいないわけで、その人も確か多忙の日々を送っているはずなので、無理と言われれば今日は渋々帰るしかない。

その時はラズさんが帰ってきてから、一緒に試し打ちに行けばいいのだが、何となくラズさんには試し打ちまで済んだ完成品を見せたかった。




「あの、ガブエラさんって今いらっしゃいますか?」

「院長ですか?...失礼ですがお名前を伺っても?」

「マリエル...グランシェルです。ギフテッド様の弟子と言えば伝わると思います」

「は、はぁ、えー、少々お待ちください」


そんなこんなで私はガブエラさんの病院に来ているわけだが、案の定、受付の人からはとてつもなく不審な目を向けられている。

これは厳しいかなぁ、なんて半ば諦めていると、少し遠い所から「あれ?」と驚いたような声が聞こえた。

己の幸運を噛み締めながら声のした方に駆け寄ると、酷く驚いたような顔をしたガブエラさんが立っていた。


「どうしたのさ、こんなとこまで来て」

「お疲れ様ですガブエラさん。ちょっと試し打ちしたい魔法がありまして、私の知っている試し打ちができる場所はあの荒野しかなかったのでダメもとで来ちゃいました」

「ふふっ、なんか変なとこでアクティブだね?」

「私は素でアクティブですよ?」

「いやぁ、ラズから聞いたよ?勉強詰め込みすぎてラズに怒られたんだって?」

「あ、あれは、そのぉ...」


ガブエラさんと世間話をしているとわらわらと人が集まってきた。

「院長と話してるあの子供は誰だ?」という視線もさることながら、ガブエラさんがラズさん以外に砕けた態度を取っていることに驚いてる人が多い。聞こえてくる音は好奇の色を大半が占めている。

私の知る限りだと物腰柔らかな印象だが、周囲の反応から察するにガブエラさんは仕事だとキッチリする性質のようだ。


「はっはっは。まぁ程にね?それで、試し打ちだっけ?それだったら魔法院に試し打ちできる場所があるよ。多分開放されてると思うから好きに使えるはず...」

「そうなんですね!ありがとうございます」


もしかすると魔法院には何でもあるのだろうか。

今度何かに困ったらとりあえず魔法院に行ってみるのもありかもしれない。

ぺこりとお辞儀をしてお礼を言うと、ガブエラさんは気にしなくていい、というようにひらひらと手を振った。病院を出る直前、ガブエラさんが誰かに話しかけられたのが聞こえた。それに短く「後で」と返したガブエラさんの声の冷たさに、『なるほどね......』とどこかでストンと納得がいく音がした。ガブエラさんは怒らせない方がいい。絶対に。




ガブエラさんの言った通り、訓練場と書かれた建物はドアが開け放たれていた。魔力検知で見たところ中に人はいないようだ。まぁ今日は休日だし、みんな思い思いの楽しい休日を過ごしているんだろう。

こつこつと中に入ってみると、内壁に魔力を弾くようなものが加工されている事に気づいた。この広さだとそこそこの魔法を使ってしまえば簡単に建物が崩れてしまいそうだったが、特殊な加工でそれを防いでいるらしい。これなら余程節操のない事をしない限り大丈夫そうだ。

さて。

今回私が作ったのは、ずばり『私の魔法を使える魔法』だ。

学んでみて思ったが、式を通す魔法の自由度は驚くほど狭い。

炎、水、風、雷、氷の五つにすべてが集約されていて、集約とはいうもののその実あまり開拓されておらず、それらの応用の浮遊魔法や転移魔法はまだまだ先の話になりそうだ。私が生きている間に、式を通す魔法が私の魔法に追いつくかどうかは正直かなり怪しい。というか順当にいけば追いつかない。そんな現状を前に、ラズさんは基本家にいるときは自室に籠りきりで魔法の研究をしている。

そんなだからか、私が家に来たばかりの時なんてさも当たり前かのようにのように『ゴトッ』『ガコッ』と家具を魔法で配置していたわけだが、これに限らず魔法を学べば学ぶほどラズさんが異常なことが分かった。

そういうわけで、自由度を求めた結果、最適解は『私の魔法を魔力を通して使用すること』に落ち着いた。

私の魔法は自由度こそ発想次第でどれだけでも広くなるが、魔力を使用しないせいで私への負担が大きい。

ということは私の魔法を魔力を使って使用するのが最適、と考えるのはむしろ必然の事だろう。

勿論、魔法を作るにあたって弊害もあった。

どこをどうやって削っても、使用する魔力の量が私の一日に使える魔力の限界ギリギリになってしまうことで、この魔法は一日に一度しか使えないし、使った後は魔法を万全の状態で使うことができない。

正直使いどころがあるかは不明、というかまぁないだろうが、この類のものはあるかないかで話が変わってくるものである。


「よし」


私は気合を入れなおす様に頬を軽く叩いてから、作った式の中に魔力を入れていくイメージをする。

いつもの如く持ち上げられた手の先には、いつもと違って魔法陣が浮き上がっている。

最初は透明で、空間が歪んでいるだけだったのが、魔力を通していくと、魔法陣に淡い桃色が入っていく。

完全に魔力が入り切ると、魔法陣は一際大きな光を放ってゆらゆらと水面のように揺れていた表面が安定した。

ここまでくれば後は打つだけなのだが、初めて使うこともあり、今回は詠唱をしようと思う。

参考書によれば、魔法の使用が困難な場合でも詠唱を行うといくらか難易度が下がるらしい。

詠唱と言っても大したものではなく、魔法の名前を言うだけなのでお手軽である。

一度息を吐いて、肺を空っぽにした後、すぅっと息を吸ってその名前を呼んだ。


「マギア」


―――――


―――


――








ある平穏だった休日。魔法院の訓練場が突如爆発し、半壊した。

魔法を放ったとされる少女は、自分のことをギフテッドの弟子だと名乗り、王国立病院院長兼魔法院最高責任者代理のガブエラが証人となった事でそれは証明された。

幾重にも魔力障壁が施されたこの国随一の防壁を単独で破壊した、という話は誇張される余地もなくそれそのままに国中に伝わり、良くも悪くもマリエルは”ギフテッドの弟子”として周知されることになった。

この件が任務帰りで程々に疲弊していたラズの胃袋を容赦なく締め上げた事は想像に難くない。

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