第61話:始動
すみません、遅くなりました。
ギルドマスターの執務室を後にした俺とエリシアは、しばし言葉もなく、重厚な扉が閉まる音の余韻の中にいた。
ギルド特殊案件調査部、リゼット調査官指揮下の新設チーム……『バグ対策チーム』。
その一員として、俺のスキルを制御し、役立てる道。
あまりにも急な展開に、まだ頭が追いついていない。
「……行くぞ」
執務室の前で待っていたリゼット調査官が、短く声をかけてきた。
彼女の表情は相変わらず読めないが、その瞳には、新たな任務への緊張感のようなものが宿っているように見えた。
俺たちは、リゼットに案内され、ギルド本部の別の区画へと向かった。
途中、以前俺たちが待機させられていた質素な個室とは明らかに違う、少し広めで、設備も整っていそうな部屋に通された。
「ここが、当面君たちが使用する部屋だ。隣同士にしてある」
リゼットはそう言うと、俺とエリシアにそれぞれ鍵を渡した。
「必要な物資や資料があれば、私を通して申請するように。ギルドマスターの許可が出ている。ただし、行動は引き続き私の管理下に置かれることを忘れるな」
「はい」
俺たちが頷くと、彼女は続けた。
「ゴードン君とセリア君については、ギルドとして別途、治療と今後の身の振り方について支援を行うことになっている。君たちのチームとは別行動だ」
その言葉に、俺は少しだけ安堵し、そして同時に、彼らのことを思うと複雑な気持ちになった。
カイトさんのことを失った彼らが、これからどうするのか……。
リゼットが部屋を出ていくと、俺とエリシアはどちらからともなく、ベッドに腰を下ろした。
「……俺が、ギルドの特殊チームに……本当に、大丈夫なんでしょうか……」
不安が口をついて出る。
追放された荷物持ちだった俺が、いきなりそんな重責を担えるとは思えなかった。
「大丈夫、私たちがいるじゃない!」
エリシアは、俺の手を力強く握った。その温かさに、少しだけ心が落ち着く。
「それに、これは大きなチャンスだよ、ノア! あなたのスキルを、ギルドの監視下とはいえ、安全な環境で研究・訓練できるんだから! 危険な暴走を繰り返すより、ずっといい。それに、ギルドのバックアップがあれば、バグの研究も大きく進むはず!」
彼女の瞳は、研究者としての期待と、俺への信頼で輝いていた。
「でも、俺の力は……」
「分かってる。危険な力だってことも、まだ制御できてないってことも。だから、一緒に調べて、制御できるようになるんだよ。ギルドマスターも、それを期待してる」
エリシアの言葉に、俺は少しだけ勇気づけられる。
そうだ、一人じゃない。
彼女がいる。
そして、ギルドという組織が、俺の力を理解しようとしている。
それは、絶望的な状況だった迷宮の中とは、明らかに違う。
翌日。
俺とエリシアは、リゼット調査官に呼び出された。
ギルド本部の地下にある、以前俺が危険物を運んだ保管庫とは別の、より小規模で、しかし厳重に管理された訓練場のような場所へ通された。
そこには、様々な計測機器や、防御結界が張られた区画などが設置されている。
「さて」
リゼットは、訓練場の中央で俺たちに向き直った。
「ギルドマスターの指示通り、まずは君、ノア君のスキルの特性と限界を正確に把握する必要がある。エリシア君の協力を得て、管理されたこの環境下で、基礎的な能力測定と制御訓練を開始する」




