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第60話:ギルドマスターとの謁見

勇者の件で王都へ赴いていたというギルドマスター。

この巨大な冒険者組織の頂点に立つ人物。

その人に、一体どのようなことを聞かれるのだろうか。


俺たちは、リゼット調査官に促されるまま、彼女と、ギルドマスターの側近らしき壮年の男性職員と共に、ギルド本部の奥深くへと続く廊下を歩いた。


途中、以前は自由に立ち入りできたはずの、地下へと繋がる階段や昇降機エリアが、今は厳重な封鎖線と複数の警備員によって固められているのが見えた。


壁には修復の跡や、まだ焦げ臭い匂いが漂っている場所もある。

ギルド職員たちが慌ただしく資材を運んだり、何かの報告書を手に走り回っていたりする。


あの地下での大騒動の後始末と、復旧作業が日夜続けられているのだろう。

その光景は、俺たちがどれほど危険な事態に巻き込まれたのかを、改めて俺に突きつけていた。


やがて、俺たちはギルド本部の最上階近くにある、ひときわ大きく、重厚な扉の前にたどり着いた。


「ギルドマスターがお待ちです」

側近の男性が厳かに告げ、扉をノックする。


中から「入れ」という、落ち着いた、しかし威厳のある声が聞こえた。


通されたのは、ギルドマスターの執務室だった。

広々とした部屋の中央には、大きな執務机があり、その向こうに一人の初老の男性が座っていた。年の頃は五十代後半だろうか。

白髪混じりの髪を後ろで短くまとめ、顔には深い皺が刻まれているが、その眼光は驚くほど鋭く、そして深い。

高価そうだが華美ではない、実用的な装飾が施された執務服を身に纏い、その佇まいからは、長年この組織を率いてきた者だけが持つであろう、絶対的な権威と、そして底知れない経験が感じられた。


この人が、ギルドマスター……。


「よく来てくれた、エリシア・フォルク君、そしてノア君。私がこのギルドのギルドマスターをやっている、ヴァレリウスだ」

ヴァレリウスと名乗ったギルドマスターは、俺たちに穏やかな、しかし全てを見透かすような視線を向けた。


「リゼットから、君たちの報告は受けている。まずは、『沈黙の迷宮』でのコアの暴走を鎮圧し、皆を生還させたこと、ギルドを代表して礼を言う。よくやってくれた」

その言葉には、労いの響きがあった。だが、彼の目は笑っていない。


「ですが……」

彼は言葉を続ける。


「勇者を失ったことは、ギルドにとっても、王国にとっても、計り知れない損失だ。そして、君たちの報告には、依然として多くの不可解な点、そして隠された部分があるように見受けられる」

彼の視線が、俺の右手を捉えた気がした。


「リゼットの報告は詳細かつ客観的だった。だが、私自身の耳で、君たちの口から、改めて聞きたい。あの深淵で、一体何が起こったのか。そして……ノア君。君の持つその力は、本当にただの【収納】スキルなのかね?」


やはり、そこか……。俺はゴクリと唾を飲み込む。

エリシアが、俺の前に進み出て口を開いた。


「ギルドマスター。ノアのスキルについては、私からも補足させてください。彼の【収納】スキルは、確かに通常のそれとは異なり、空間そのものに干渉する特性を持っています。迷宮での戦闘や脱出において、彼のその力がなければ、私たちは生還できなかったでしょう。しかし、それはまだ彼自身も完全には理解・制御できていない、未知の力です。そして、その使用には大きな代償も伴います」

彼女は、俺の消耗ぶりや、スキルの危険性についても正直に説明する。


「そして、『バグ』……エリシア君がそう呼ぶ、あの空間異常現象についても、君の見解を聞きたい」

ギルドマスターは、エリシアに視線を移す。


エリシアは頷き、彼女がこれまでに集めた情報と、今回の経験から導き出した『バグ』に関する仮説――古代技術の暴走、情報汚染、そしてそれが世界に広がる可能性――について、専門的な知識を交えながら、しかし分かりやすく説明した。


ギルドマスターは、俺とエリシアの話を、時折鋭い質問を挟みながらも、最後まで黙って聞いていた。

やがて、彼は深く息をつき、椅子にもたれかかった。


「……なるほどな。勇者の不在、未知のスキルを持つ少年、そして世界を蝕む可能性のある『バグ』か……。問題が、山積みだということだけはよく分かった」


彼は呟くように言った後、再び俺たちを真っ直ぐに見据えた。

「エリシア君。君の知識と分析力は、ギルドにとって大きな価値がある。今後も、その研究を続けてもらいたい。もちろん、ギルドの全面的な協力と……監視の下で、だがね」


「……はい。承知しております」

エリシアは冷静に答えた。


「そして、ノア君」

ギルドマスターの視線が、俺に集中する。


「君の力は、確かに危険だ。だが、同時に、この『バグ』という新たな脅威に対抗するための、唯一の鍵となる可能性も秘めている。……君には、ギルドの管理下で、その力を制御し、そして役立てるための道を用意しようと思う」


彼の言葉に、俺は息を呑んだ。

「ギルド特殊案件調査部……リゼットの指揮下に、新たに『バグ対策チーム』を編成する。エリシア君には研究主任として、そしてノア君、君にはその特異な能力を活かした実働メンバーとして、参加してもらいたい。もちろん、君のスキル訓練も、ギルドが全面的にサポートする」


それは、予想もしていなかった提案だった。

それは、予想もしていなかった提案だった。

追放され、役立たずと蔑まれた俺が……ギルドの、しかも特殊チームの一員に?


「もちろん、これは強制ではない。だが、君の力を放置しておくことは、ギルドとしても、そしておそらくは世界にとっても、看過できないリスクとなるだろう」

ギルドマスターの言葉は、選択の余地を与えない響きを持っていた。


俺は、隣に立つエリシアを見た。彼女は、俺に力強く頷き返してくれた。

彼女となら……。


「……やらせて、ください」

俺は、震える声で、しかしはっきりと答えた。


「よろしい」

ギルドマスターは、初めてわずかに満足そうな笑みを浮かべた。

「詳細は、追ってリゼットから指示があるだろう。……期待しているぞ、二人とも」


俺とエリシアは、ギルドマスターの執務室を後にした。

重い扉が閉まると、俺たちはどちらからともなく、深いため息をついた。

だが、それは絶望のため息ではなかった。


これから始まるであろう、未知の戦いと、自分たちの力への、わずかな、しかし確かな希望を孕んだ、そんなため息だった。

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