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第59話:動き出す世界

ギルドの地下迷宮から生還して、数日が過ぎた。

俺は、ギルドが用意してくれた清潔な個室のベッドの上で、まだ重い体をゆっくりと起こした。


クララさんの献身的な治癒魔法と、十分な休息のおかげで、エーテル結晶を取り込んだ際の反動や、スキルを酷使したことによる激しい消耗は、だいぶ和らいできていた。

頭痛も引き、体力も少しずつ戻ってきている。


だが、完全に元通りというわけではない。

時折、自分の右手に、あの青白いエーテル結晶の光の残滓のようなものが見える気がするし、世界の『情報』が、以前よりもずっと鮮明に、そして勝手に流れ込んでくるような感覚に戸惑うこともあった。

俺のスキルは、あの経験を経て、確実に何かが変わってしまっている。それが良いことなのか、悪いことなのか、今の俺にはまだ判断がつかない。


「ノア、起きたんだね。調子はどう?」

扉が控えめにノックされ、エリシアが入ってきた。彼女の顔にもまだ疲労の色は残っているが、その瞳にはいつもの知的な輝きが戻っている。


「エリシアさん……。はい、だいぶ良くはなりました」

「そっか、よかった。無理はしないでね」


彼女はベッドサイドの椅子に腰を下ろすと、声を潜めて言った。


「リゼット調査官が、私たちの処遇について、ギルド上層部と協議してくれているみたい。まだ正式な決定は出てないけど……少なくとも、すぐに危険な任務に駆り出される、ってことはなさそうだよ」


その言葉に、俺は少しだけ安堵の息をついた。


俺のスキルのことは、ギルドにとって大きな『爆弾』のようなものだろう。

どう扱われるのか、不安で仕方がなかった。


「エリシアさんは、何か……?」

「私は、持ち帰った記録媒体の断片の解析を少しずつ進めてる。あとは、あのホログラム地図の情報もね。ギルドの資料室への立ち入りはまだ制限されてるけど、自分の知識とツールだけでも、いろいろと分かってきたことがあるよ」


彼女は少しだけ目を輝かせる。研究のこととなると、彼女は本当に生き生きとしていた。


***


そんな休息の日々がさらに数日続いた頃。

都市全体が、あるニュースで少しざわつき始めたのを、俺たちは部屋の窓から伝わってくる喧騒で知った。


「……勇者の、公式発表があったみたいだね」

エリシアがどこか硬い表情で言った。

ギルドの広報板や、街角の噂話として、そのニュースは瞬く間に広がっているようだった。


内容はエリシアが以前推測した通り、「勇者カイト、古代遺跡の調査任務中に不測の事態に遭遇し、行方不明。生存は絶望的」というものだった。


英雄の不在。

その事実は、この都市だけでなく、王国全体にも大きな衝撃と不安を与えているに違いない。

そして、その原因の一端を俺たちが担ってしまったという事実は、重く俺の心にのしかかる。


「……これで、世界が少し動き出すかもしれないね」

エリシアは、窓の外の空を見つめながら、意味深に呟いた。


そして、その言葉を裏付けるかのように、その日の午後。

俺たちの部屋の扉が、いつもとは違う、重々しいノック音で叩かれた。


入ってきたのは、リゼット調査官だった。


彼女の後ろには、見慣れない、しかし明らかに高位のギルド職員と思われる壮年の男性が立っている。

その人物からは、バルガスさんともリゼットとも違う、圧倒的な威厳と、底知れない何かが感じられた。


リゼットは、俺とエリシアに向き直り、静かに告げた。

「ノア君、エリシア君。お話があります。ギルドマスターが、お戻りになりました。そして、君たちに……直接会って話がしたい、と」


ギルドマスター……!

このギルド全体の最高責任者。王国へカイトさんの件を報告に行っていたという、その人が……?

俺とエリシアは、顔を見合わせ、ゴクリと息を呑んだ。

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