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第55話:鎮まりし鼓動

「……」

「…………」


誰もが、言葉を失い、目の前の光景を見つめていた。

荒れ狂っていた災厄の源流が、今はただ静かに、しかし荘厳な光を放っている。


空間を歪めていた不快なノイズ音も、いつの間にか止んでいる。

まるで、悪夢から覚めたかのような、不思議な静寂がドームを支配していた。


「……終わった……のか……?」

最初に口を開いたのは、斥候のフィンさんだった。彼の声は、まだ信じられないといった響きを帯びている。


「ああ……」

バルガスさんも、負傷した左腕を庇いながら、呆然とコアを見つめている。

「……止まった……のか……? あの、暴走が……」

ダリウスさんも、大盾を下ろし、荒い息をつきながらも、安堵の表情を浮かべていた。


「ノア! ノア、大丈夫!?」

エリシアが、俺の体を強く揺さぶる。俺は、最後のスキル行使の反動で、完全に意識を手放しかけていた。


「……エリシア……さん……?」

「うん、私だよ! しっかりして! あなたが……あなたがやったんだよ!」


彼女の瞳には、涙が浮かんでいた。


「ノア君!」

クララさんが駆け寄り、俺の体に再び治癒魔法を施してくれる。


温かい光が、消耗しきった体に染み渡り、少しずつだが、力が戻ってくるのを感じた。

頭痛も、先ほどまでの激烈なものから、鈍い痛みに変わってきている。


「……コアの状態は……?」

リゼット調査官が、冷静さを取り戻し、エリシアに尋ねる。


エリシアは解析ツールを再びコアに向けた。


「……間違いない……! コアの異常なエネルギー反応、完全に沈静化してる! 空間の歪みも、ほぼ正常値に戻った……! L-773の汚染反応も消滅……。ノアが、コアの情報を『正常化』したんだ……!」

彼女の声は、興奮と驚嘆で震えていた。


「……本当に……やったのか……。あの、小僧が……」

バルガスさんが、信じられないといった様子で俺を見る。

その視線には、もはや以前のような侮蔑の色はなく、畏敬に近い何かが混じっているように見えた。


俺は、エリシアに支えられながら、ゆっくりと体を起こす。


(俺が……コアを……正常化……?)

まだ実感が湧かない。ただ、目の前のコアが、先ほどまでの禍々しい姿ではなく、穏やかな光を放つ存在に変わっていることだけが、現実だった。


エーテル結晶を取り込んだことで得た力と、エリシアの的確な指示、そして、仲間たちの決死の援護。

その全てが揃って、初めて成し遂げられた奇跡なのかもしれない。


「だが……」

リゼット調査官は、厳しい表情を崩さない。


「コアの暴走は止まったかもしれんが、我々の状況が好転したわけではない。負傷者は多く、ノア君も限界だろう。そして、この場所、いや、この迷宮全体が、依然として危険なことに変わりはない」

彼女の言葉は、浮かれそうになる俺たちの気持ちを引き締めた。


「今はまず、負傷者の安全確保と、ここからの確実な脱出ルートの確保が最優先だ。……フィン、周囲の状況を再度確認しろ。他の脅威は?」

リゼットは、きびきびと指示を飛ばす。


「はっ! 確認します!」

フィンさんが、すぐに動き出す。


俺は、ドーム状の空間を見回した。

暴走は止まったとはいえ、コアは依然として巨大なエネルギーを秘めているように見える。


そして、L-773が取り込まれていた中心部は、今はただ穏やかな光を放っているだけだが、その奥に何か別の……さらに深い謎が隠されているような気もした。


(本当に、これで終わりなのだろうか……?)


コアの正常化は、あくまで一時的なものなのかもしれない。根本的な原因……この迷宮全体のバグの源流を断ち切らない限り、またいつ暴走を始めるか分からない。


そんなことを考えていると、俺の『感知』能力が、ふと、コアとは別の方向――このドーム空間の、さらに奥まった壁際の一角――に、微かな、しかし奇妙な『流れ』を感じ取った。


それは、バグの気配ではない。もっと……清浄で、安定した、微弱なエネルギーの流れ。まるで、どこかへ続いている道標のような……。


「……あの……」

俺は、無意識にその方向を指差していた。

「あそこ……何か……あります……」


俺の言葉に、全員の視線が、俺が指差した壁際の一点へと集まった。

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