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第54話:脈動

「エリシアさん、リゼット調査官。……行けます。コアの正常化、やりましょう」


俺の決意の言葉に、その場の全員が息を呑んだ。

暴走する迷宮のコアが、再び禍々しいエネルギーの脈動を強め、次の奔流を放とうとしている。もう、一刻の猶予もなかった。


「ノア君、本当に……?」

リゼット調査官が、俺の体調を気遣うように尋ねる。エーテル結晶の欠片を取り込んだとはいえ、俺の顔色はまだ決して良いとは言えないだろう。


「はい。エリシアさんの作戦と……俺の、この力を信じます」

俺は力強く頷いた。もう、迷いや恐怖に足を止めている場合ではない。


「分かった!」

エリシアが、俺の隣で杖を構え直す。その瞳には、強い決意と、俺への絶対的な信頼が宿っていた。


「ノア、私がコアの『本来のパルス』の位置を正確に誘導する! あなたは、さっき取り込んだエーテル結晶の持つ『安定した情報パターン』を、そのパルスに送り込むイメージで! コアの暴走した情報を、正常な情報で上書きするんだ!」


「はい!」


「バルガス! ダリウス! フィン! クララ! 全力で二人を守れ! コアが最後の抵抗を見せるはずだ!」

リゼット調査官の鋭い号令が飛ぶ。


「「「応!!」」」

バルガスさんたちが、俺とエリシアの前に立ちはだかる。


ダリウスさんは、全身の痛みに顔を歪めながらも大盾を地面に固定するようにして構え、バルガスさんは折れた左腕を庇い、右手だけでどうにか戦槌の柄を握り、短剣を抜き放ち周囲を警戒しているフィンさんの肩を借りて立っている。


クララさんは、後方から俺たち全員に支援と防御の魔法をかけ続け、同時に負傷者たちの状態も絶えず気にしている。


俺は、暴走するコアへと右手を突き出した。


エーテル結晶を取り込んだことで、体内にまだ熱いエネルギーの奔流を感じる。

だが、それは以前のような制御不能なものではなく、俺の意思で、ある程度方向づけられるような……そんな感覚があった。


(エリシアさんが言っていた、『力の流れ』を意識する……。そして、コアの奥にある、あの微かな『本来のパルス』……そこに、この安定した情報を……届ける!)


俺は、暴走する赤黒いエネルギーの濁流の奥に、か細く、しかし確かに存在する、青白い清浄な光の脈動を『感知』する。あれだ!


収納ストレージ――情報同調チューニング!!!』


心の中で、新たなスキルの発動を宣言する!

俺の右手から、先ほど吸収したエーテル結晶のそれと似た、清浄で安定した青白い光のラインが放たれた。それは、荒れ狂うコアのエネルギーを切り裂くように、真っ直ぐに、コアの奥深くにある『本来のパルス』へと向かっていく!


ズズズズズ……!


凄まじい抵抗感。コアの暴走エネルギーが、外部からの干渉を拒絶するように、俺の放った光のラインを押し返そうとする。

「ぐっ……!」

俺は奥歯を噛み締め、全身全霊でスキルを維持する。エーテル結晶から得たエネルギーが、この瞬間のためにあるのだと、本能的に理解していた。


「ノア! しっかり!」

エリシアが、俺の肩を支えながら叫ぶ。


「コアのパルスが、あなたの力に反応してる! あと少し……!」


彼女の言う通り、俺が放つ青白い光のラインがコアの奥の『本来のパルス』に触れた瞬間、コア全体の脈動がほんのわずかに、だが確かに変化した。

暴走する赤黒い光の中に、一瞬だけ、澄んだ青白い光が差し込んだように見えたのだ!


「効いてる……! 本当に、コアが……!」

俺の胸に、確かな手応えと希望が湧き上がる。


だが、暴走したコアも、そう簡単には屈しない。


グオオオオオオオオオオォォォン!!!!


これまで以上の、空間そのものを震わせるような咆哮!

コアの中心部――L-773が取り込まれた部分が、ひときわ禍々しい赤黒い光を放ち、俺の放つ青白い光のラインを押し潰そうと、さらに強大なエネルギーの奔流を逆流させてきた!


「まずい! コア内部のバグが、最後の抵抗を……!」

エリシアが叫ぶ。


逆流してきたエネルギーは、凝縮された悪意そのものだった。それは、俺のスキルラインを伝い、俺自身の精神を直接攻撃してくる!

「ぐ……あああああっっ!!」

頭を内側からかき乱されるような激痛! 視界が赤く染まり、意識が遠のきそうになる!


「ノア君!」

「ノア!」

クララさんとエリシアの悲鳴が聞こえる。


(ダメだ……ここで、負けるわけには……!)


俺は、朦朧とする意識の中で、必死に抵抗する。

イメージは、『濾過』。そして、『安定』。


エーテル結晶を取り込んだ時、無意識にやった、あのバグ情報を弾き、清浄なエネルギーだけを取り込む感覚。

そして、ゴーレムの周りの空間を『安定化』させた、あのイメージ。


(この、汚染されたエネルギーを……俺のスキルで……『濾過』して……『安定化』させるんだ……!)


不可能かもしれない。だが、やるしかない!

俺は、逆流してくる禍々しいエネルギーの奔流に、正面から向き合った。


そして、俺の【収納】スキル――いや、もはや【収納】という言葉では表せない、この未知の力が、再び大きく脈打った!


俺の体を中心に、青白い光の波紋が広がり、逆流してきた赤黒いエネルギーと激しく衝突する!

バチバチバチッ! と激しい火花が散り、空間が悲鳴を上げる!


「持ちこたえろ、ノア!」

バルガスさんの声が飛ぶ。彼もダリウスさんもフィンさんも、コアから放たれる衝撃波や破片から、必死に俺たちを守ってくれていた。


長い、長い一瞬。

あるいは、永遠にも感じられた攻防。


そして――


ふっ、と。

俺を襲っていた激しい抵抗と圧力が、嘘のように消え去った。

同時に、コアの中心部から放たれていた禍々しい赤黒い光が急速にその勢いを失い、代わりにコアの奥深くから、穏やかで、清浄な青白い光が、ゆっくりと、しかし力強く、溢れ出し始めたのだ。


それは、俺が最初に感知した、あの『本来のパルス』と同じ、優しく、そして安定した光だった。

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