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第53話:賭け

「俺の力で……コアを、正常化してみせます」


俺の決意の言葉に、その場の全員が息を呑んだ。


暴走する迷宮のコアを前に、俺たちは最後の、そして最も危険な賭けに出ようとしていた。

リゼット調査官が頷き、バルガスさんたちが援護の配置につこうとした、まさにその時だった。


「ぐっ……!」


スキルを発動させようとした俺の右腕に、力が入らない。それどころか、立っていることすら困難になり、俺は思わず膝をつきそうになった。エリシアが慌てて俺の体を支える。


「ノア!?」

「だめだ……力が……足りない……」

これまでの無理が、ついに限界を超えて噴き出したのだ。


警備ゴーレムや融合実験体との戦いなどでの連続したスキル行使……。

クララさんの治癒魔法でも、この根源的な生命力の消耗は、もはや回復しきれていなかったのだ。


「これ以上のスキル行使は命に関わります!」

クララさんが悲痛な声を上げる。


「くそっ……ここまで来て……!」

バルガスさんが悔しげに顔を歪める。コアは、不気味な脈動を繰り返し、次のエネルギー奔流をいつ放ってきてもおかしくない状況だった。


その、絶望が再び俺たちを覆い尽くそうとした瞬間、エリシアが声を上げた。


「……これよ!」


彼女は、バルガスさんが持つ袋から、青白い光を放つエーテル結晶の欠片――融合実験体から取り出したそれを、震える手で取り出した。


「ノア! これを使って! 賭けだけど…あなたのスキルなら、この結晶の純粋なエネルギーを直接取り込んで、力に変えられるかもしれない!」


エリシアの言葉に、俺は目を見開く。エーテル結晶を取り込む……?


「バグの汚染も僅かに感じる……何が起こるか分からない……でも、今のあなたには、これしかないはず……!」

彼女の瞳は、必死に俺に訴えかけていた。


リスクは計り知れない。


未知のエネルギーを、しかもバグに汚染されているかもしれないものを、直接体内に取り込むなど、正気の沙汰ではない。

スキルが再び暴走するかもしれないし、俺自身の存在が変質してしまう可能性だってある。


俺は一瞬ためらった。

だが、エリシアの真剣な眼差しと、背後で荒れ狂うコアの気配、そして仲間たちの絶望的な表情が、俺に決断を迫る。


「……やります」

俺は、掠れた声で、しかしはっきりと答えた。

「エリシアさんを……信じます」


「ノア……!」

エリシアは、俺の手にそっと結晶の欠片を握らせた。ひんやりとした感触と、内側から発せられる、純粋だがどこか不安定なエネルギーの波動が伝わってくる。


「イメージは……この結晶のエネルギーの『情報』を、あなたの生命力の『情報』に書き換える……そして、それをあなたの体内に『収納』する……!」

エリシアが、具体的なイメージを俺に伝える。彼女もまた、俺のスキルについて、必死に考えてくれていたのだ。


俺は頷き、目を閉じて意識を集中する。


右手に握りしめたエーテル結晶の欠片。

そこから流れ込んでくる、膨大で、純粋なエネルギーの『情報』。

そして、俺自身の体。消耗しきった生命力。


(書き換える……取り込む……!)


収納ストレージ――生命力変換エナジー・コンバート!!!』


心の中で、新たなスキルの名を叫ぶ!

瞬間、右手の結晶の欠片が、カッと眩い光を放った!

そして、その光が、奔流となって俺の右腕から体の中へと流れ込んでくる!


「ぐううううううううううっっっ!!!!」


凄まじい熱量とエネルギーの奔流! まるで、溶けた鉄を無理やり流し込まれるような、激烈な痛みと圧迫感!

体が内側から焼き尽くされそうだ!

意識が飛びそうになるのを、必死で堪える。


(制御しろ……! 制御するんだ……! エリシアさんが教えてくれたように……力の流れを……イメージで……!)


俺は、流れ込んでくるエネルギーの奔流を、ただ受け入れるのではない。

その『情報』を、俺の意思で『生命力』へと変換し、そして体内に『調和』させるイメージを、必死で維持しようと試みる。


結晶の欠片が持つ、わずかな『バグの汚染情報』。それも感じ取れる。それを、可能な限り『濾過』するようなイメージも……!


どれほどの時間が経ったのか。


永遠にも感じられた奔流が、ふっと収まった。

右手に握っていた結晶の欠片は、光を失い、ただの石ころのように力を失って、ハラハラと崩れ落ちていく。


「はあっ……はあっ……はあっ……!」

俺は、激しく肩で息をしながら、ゆっくりと目を開けた。


全身は汗でびっしょり濡れ、まだ体の内側が燃えるように熱い。

だが……。


(力が……戻ってきてる……!?)


信じられないことに、あれほど消耗しきっていた体に、確かな力が漲ってくるのを感じたのだ。頭痛も、倦怠感も、嘘のように軽減されている。完全ではない。でも、間違いなく、スキルをもう一度使うだけの力は、今の俺にはあった。


「ノア……? 大丈夫……?」

エリシアが、恐る恐る俺の顔を覗き込む。


俺は、彼女に向かって、力強く頷いてみせた。

「はい……! エリシアさんのおかげです……! これなら……行けます!」

俺の声には、自分でも驚くほどの力が戻っていた。


そして、俺は感じていた。

ただ回復しただけではない。俺の中で、何かが変わった。

エーテル結晶の純粋なエネルギーを取り込んだことで、俺のスキルそのものが、何か新たな段階へと進化したような……そんな予感が。


その時、ドーム空間の中央、暴走するコアが、ひときわ大きな脈動を始めた!

禍々しいエネルギーが、再び俺たちを飲み込もうと、その牙を剥き出しにする!


「来るぞ! 急げ!」

バルガスさんが叫ぶ。


「ノア!」

エリシアが俺の名を呼ぶ。


俺は、エリシアの瞳を真っ直ぐに見つめ返し、そして、暴走するコアへと向き直った。

もう、迷いはない。

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