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第52話:仮説

「あのコアの暴走……何か、手はないのかね? 君たちの知識と、その『特異な視点』で」


リゼット調査官の言葉が、破壊され、エネルギーの残滓が渦巻くドーム空間に響く。


俺は、エリシアに肩を支えられながら、かろうじて意識を保っていた。

先ほどの、本能的なスキル発動の代償は大きく、全身が鉛のように重い。


「……あれだけのエネルギー奔流です。通常の手段での鎮圧は不可能でしょう」

バルガスさんが、負傷した左腕を押さえながら苦々しげに言う。


クララさんが彼とダリウスさんの応急処置を続けているが、二人ともまだ動けそうにない。

フィンさんも、壁際で警戒を続けているが、その表情は硬い。


「でも……何か、何かあるはずだよ……!」

エリシアは、暴走を続けるコアを睨みつけながら、必死に解析ツールを操作していた。

だが、ツールは依然として不安定な数値とエラー表示を繰り返すばかりだ。


「コアのエネルギーパターンが、L-773の残骸の影響で、異常な増幅とフィードバックループを起こしてる……。あれが、本来のコアの機能を完全に『バグらせて』暴走させてるんだ……!」


彼女の言葉に、俺ははっとした。 L-773が、増幅器……。

そして、俺の感知能力が捉えていた、コアの奥深くにある、微かで、しかし規則正しい『本来のパルス』のようなもの。


「エリシアさん……」

俺は、途切れ途切れに言葉を紡ぐ。


「あの、コアの……もっと奥……L-773が取り込まれてる部分の、さらに内側……何か、すごく……静かで、規則正しい……『流れ』みたいなものを、感じるんです……。暴走してるエネルギーとは、明らかに違う……」


「え……? 本当に、ノア!?」

エリシアは目を見開いて俺を見る。


「それって……もしかしたら、コアが完全にバグに汚染される前の……『正常な状態』のエネルギーパターン、あるいは情報の名残かもしれない!」


彼女は自分の解析ツールと、俺の言葉を照合するように、再びコアへと向き直る。


「もしそうなら……もし、あのL-773の『汚染情報』を遮断して、コア本来の『正常な情報』を再活性化させることができれば……あるいは、外部から安定した『正しい情報』を送り込んで、コアの暴走を上書きできれば……!」


「……正常化、だと?」

リゼットが、エリシアの言葉に反応した。


「エリシア君、君は、あの暴走するコアを『破壊』するのではなく、『正常に戻す』ことができると? そんなことが可能なのか?」


「可能性は……ゼロじゃないはずです!」

エリシアはきっぱりと言った。


「古代技術の中には、暴走したエネルギー体を安定化させたり、破損した情報を修復したりする理論が存在します。問題は、そのための『正しい情報』と、それをコアに届ける手段……そして、L-773の干渉をどうやって断ち切るか……」


彼女はそこで言葉を切り、バルガスさんが持つ、エーテル結晶の欠片が入った袋を見た。


「……あの結晶。あれは、融合実験体から取り出したものだけど、元々は純粋なエーテル結晶だったはず。もし、あれにまだ『正常なエネルギーパターン』が残っているとしたら……あれを『種』にして、コアに『正しい情報』を……」


「しかし、どうやって?」

バルガスが問う。


「あのコアに近づくことすら、今の我々には……」


その時、俺の中で、一つのイメージが形を結びつつあった。 俺のスキル……【収納】。

それは、ただ物を仕舞うだけじゃない。空間に干渉し、情報を読み取り、そして……情報を『変換』することもできた。


ならば……。


「……俺の、スキルで……」

俺は、震える声で言った。


「あの、エーテル結晶の欠片の『情報』を……コアの、奥にある『正常な流れ』と……『同調』させて……送り込む……とか……」


それは、あまりにも突飛で、危険な発想だった。

今の俺の状態で、そんな精密な情報の操作と、空間への干渉ができるとは思えない。


だが、エリシアは、俺の言葉に目を見開いた。

「……ノア……! それだよ! それしかないかもしれない!」

彼女は俺の手を強く握る。


「あなたのスキルで、エーテル結晶の持つ『正常な情報』を、コアの奥にある『本来のパルス』に直接届ける! L-773の汚染情報をバイパスして、コアそのものに『正しいリズム』を思い出させるんだ!」


「そんなことが……本当に……」

俺は戸惑う。


「やってみる価値はある!」


リゼットが決断した。


「他に有効な手立てがない以上、その可能性に賭けるしかないだろう。……だが、ノア君。君の消耗は激しい。本当にやれるのか?」

彼女の視線が、俺に突き刺さる。


怖い。


またあの力の奔流に飲み込まれるかもしれない。

失敗すれば、今度こそ全員が……。


でも、俺が感じた、あのコアの奥の、か細いけれど確かな『流れ』。

あれが、本当に希望の糸口なのかもしれない。


「……やります」

俺は、エリシアの顔を見て、そして、負傷しながらも俺たちを見守るギルドの仲間たちを見て、覚悟を決めた。


「俺の力で……コアを、正常化してみせます」

その言葉に、エリシアは力強く頷き、リゼットは静かに目を伏せた。

バルガスたちも、固唾を飲んで俺を見守っている。


「……よし」

リゼットが顔を上げた。


「作戦を立てる。エリシア君、君がノア君をサポートし、コアの『正常なパルス』の位置と、エーテル結晶の『情報』の同調を指示。ノア君は、それに従ってスキルを行使。バルガス、ダリウス、フィン、クララは、何があっても二人を守り抜け。コアが、最後の抵抗を見せるかもしれん」

「「「はっ!!」」」


作戦は決まった。


暴走する迷宮のコアを、『正常化』する。

それは、あまりにも無謀で、成功の保証もない、危険な賭けだった。


だが、俺たちの表情には、絶望だけではない、新たな決意の光が灯っていた。

コアが、再び不気味な脈動を強め、次のエネルギー奔流を放とうとしている気配を感じながら、俺はエリシアと共に、ゆっくりとコアへと向き直った。

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