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第38話:警報

けたたましい警報ベルの音が、広大な倉庫に響き渡る。

俺たちが立っている倉庫の床が、地下深くから突き上げてくるような強い振動と共に、ミシリ、と嫌な音を立てて大きく軋んだ。


「うわっ!」

「な、なんだ!?」


倉庫内で作業していた他のギルド職員たちも、突然の揺れと警報にパニックを起こし始めていた。棚から物資がいくつか落下し、ガシャンと音を立てて散らばる。


「総員退避! 地下保管庫で異常発生! これは訓練ではない、繰り返す、総員退避!」

壁に設置された拡声器から、切迫した声が繰り返し流される。


だが、俺はその場から動けなかった。

俺の『感知』能力が、地下深くから急速に膨張し、こちらへ向かってくる強烈な『バグ』の波動を捉えていたからだ。それは、昨日木箱から感じた微弱なノイズとは比較にならないほど強く、そして禍々しい。あの遺跡で感じた、空間そのものを侵食するような、危険な気配だ。


「おい、ノア! ぼうっとするな! 逃げるぞ!」

ユレクが俺の腕を掴み、避難口へと引っ張ろうとする。彼の顔にも焦りの色が見える。彼の役目は俺の監視だが、同時に俺の安全を確保する義務もあるのだろう。


「ま、待ってください、ユレクさん! これは、ただのエネルギー反応じゃなくて……!」

俺は必死に伝えようとするが、ユレクは聞く耳を持たない。

「いいから早くしろ! 命令だ!」


その時だった。

「ノア!!」

倉庫の入り口の方から、エリシアが息を切らして駆け込んできた。彼女も警報を聞きつけ、資料室から飛んできたのだろう。


「エリシアさん!」

「一体、何があったの!? この揺れと警報……それに、この嫌な感じ……!」

エリシアもまた、俺と同じように、この空間に広がりつつある異常な気配を感じ取っているようだった。彼女の解析ツールが、不安定な光を明滅させている。


俺はユレクの手を振り払い、エリシアに駆け寄った。

「地下保管庫で……異常が発生したみたいです! D-7区画だって……!」


「D-7区画!?」

エリシアは目を見開いた。D-7区画――そこはギルドが特に危険な物品を保管する場所だ。


(記録で見た、過去に異常を起こした遺物もそこにあるはず……! まさか、それが原因……?)


エリシアがノアを見ると、彼の顔も同様に蒼白になっていた。


「エリシアさん……! あの箱が今朝、D-7区画に移送されたって……ユレクさんが……!」

ノアの言葉に、エリシアの最悪の予感が確信に変わる。


「……やっぱり……!」

エリシアの顔から血の気が引いていく。ノアが昨日感じた異常、過去の記録、そして今まさに異常が発生している場所……全てが繋がってしまった。

「もし、あの遺跡由来のレーションと記録されていた物が『バグの種』で、それが地下で他の不安定物質と反応して……!?」


俺たちが状況の深刻さを理解し始めた、その時。

避難する職員たちの流れに逆らうように、倉庫の入り口から鋭い視線が俺たちに向けられた。リゼット調査官だ。彼女の後ろには、あのバルガスと思しき屈強な戦士の姿も見える。彼らは、警報を受けてすぐさま現場に駆けつけたのだろう。


リゼットの怜悧な目が、俺とエリシア、そして俺たちを監視していたユレクを捉える。

「……あなたたちか」

彼女の声は、周囲の喧騒の中でも、奇妙なほどはっきりと聞こえた。

「ちょうど良かった。この騒ぎについて、何か知っていることはあるかな? 特に……君、ノア君」

彼女の視線は、明らかに俺のスキルを探っていた。ユレクからの報告で、俺が昨日、異常を感知していた箱を扱っていたことを知っているのかもしれない。


俺とエリシアは顔を見合わせた。

言うべきか? 俺の感知能力のこと、バグの可能性のこと……。

でも、それを話せば、俺たちはどうなる?

リゼットは、俺たちの力をどう判断する?


「……保管庫での事故かと」

エリシアが、慎重に言葉を選んで答えた。


「私たちはギルドの指示に従い、ここで作業を……」


「そうかね?」

リゼットはエリシアの言葉を遮るように、俺を真っ直ぐに見つめた。


「君は、何か『感じて』いるんじゃないのかね? その、便利な【収納】スキルとやらで」


試すような、あるいは確信しているような口調。俺は息を呑んだ。

どう答える……!?


ゴゴゴゴゴッ!!!


俺が答える前に、倉庫全体がこれまでで一番大きな揺れに見舞われた!

地下から、何かが突き上げてくるような強い衝撃!

天井の一部が崩落し、床には大きな亀裂が走る!


「きゃあああっ!」

「うわああ!」


悲鳴と怒号が飛び交う中、リゼットは素早く状況を判断した。

「……悠長に話を聞いている場合ではなさそうだ」

彼女は俺とエリシアに鋭い視線を向けたまま、きっぱりと言い放った。


「ノア君、エリシア君。君たちには、私と共に行動してもらう。その『特異な視点』が、この状況の打開に必要になるかもしれんからな」


それは、尋問ではなく、命令だった。

俺たちは、反論する間もなく、ギルドの調査官によって、この混乱の渦中へと引きずり込まれることになったのだ。

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