62話:決着
左肩が痛みで燃えるようだ。
姫川を見つめ、集中力を高める。
だが、肩の痛みが、動かせない腕が集中力を乱す。
でも、弱音は吐かない。
この負傷は俺自身の未熟さが招いた結果であり、何より今はまだ戦いの最中だから。
姫川はこれまで以上に集中している。
誰よりも勝利することを目指している瞳。
俺に勝ちたいと思う強い気持ちが溢れ出ている。
……負けられない。
気持ちで負ける訳にはいかない。
そんな気持ちでは全力の姫川に失礼だし、悔いが残る戦いになんてしたくないから。
深呼吸をひとつ。
徐々に呼吸を整える。
肩の痛みが薄れていく。
それと同時に視界に映る背景が黒に染まる。
俺の目にはもう姫川しか映っていなかった。
ここからは二人だけの世界。
さあ、決着をつけよう。
―――――
目の前にいるのは手負いの御堂。
さっきの攻撃は渾身の一撃だった。
その証拠にこの戦いでは御堂の左腕はもう役に立たないはず。
それでも消えない目の光。
諦めてなんていない瞳。
怪我を負っても、いつもと変わらないライバルの姿があった。
静かにゆっくりと呼吸を整えている。
狙うなら今のうち。
でも、どうせなら全力の御堂と戦いたい。
私の想いが届いたのか、雰囲気が変わった。
空気が重い。
私の本能がここからが本当の戦いなのだと告げている。
いいえ、ここからが私の望んだ戦いなんだ。
防げるものなら防いでみなさい!
いくわよ!御堂!
――――
姫川の身体が沈む。
スローモーションのようにハッキリと分かる。
剣先の向きは――つま先の向きは――
……狙いは胴体か。
下段に構える木刀を握る手に少し力を入れる。
来る。
俺の経験が直感が教えてくれる。
綺麗だ。
まるで弓から放たれる矢のように直線の動きの中にしなりがある。
姫川の飛び出しを見て、素直にそう思った。
限界まで引き溜めた腕が伸びる。
タイミングを合わせて、優しく木刀を振り上げた。
カツン
小さい音。
でも、これだけで軌道はズレた。
「えっ」
俺の神経は全て木刀を握る手へと注がれている。
触れ合った木刀が擦れ、一定の振動が手に伝わってくる。
そして、姫川の腕が伸び切った時、違う振動が伝わった。
一瞬、ほんの一瞬だが伸びた。
すまん、姫川。
見切ったぜ。
その技を。
振り上げた木刀が天を差す。
驚愕に目を見開く姫川。
その隙を、俺は逃さなかった。
無音の振り下ろし。
雑念も勝敗の行方も考えていなかった。
ただ、姫川の首元へ。
俺達の動きは止まっていた。
木刀を首筋に添えたまま。
周囲もそうだったのかもしれない。
誰も音を出さなかった。
――
俺は姫川と目で会話していた。
どんな言葉だったのかは、分からない。
でも、戦いを通じて確かに会話した。
やがて、一人の男が動く。
「勝者! 御堂!」
東雲先生の声だけがグランドに響いた。




