61話:感覚
俺は後ろから姫川に抱えられ、姫川は背中から抱き着くような体勢。
およそ、戦いの最中とは思えない状態だが、俺達は戦っている。
姫川の武器を持たない方の手に力が入る。
来る!
俺は脇で木剣を挟み込んだまま、体を回し距離を取ろうとする。
掴まれた服が乱れるがお構いなし。
相手の武器を奪うことが出来れば、悪いが負けようがないから。
その意図に気づいたのか、姫川は下がりながら、両手で木剣を引き抜く。
こうして俺達は三度、相対する。
違うのは表情。
俺も姫川も我慢出来ないらしく、笑顔だった。
「次もこちらから行かせてもらうわ」
「来い」
短い会話の中に二人だけが共有する感情があった。
姫川はひとつ、大きく息を吸うと笑顔を消す。
間違いなく、何か仕掛けてくる。
俺の直感が警鈴を鳴らす。
これまでよりも深い沈み込み。
迷うことなく、姫川が得意とする突き技。
何度も見てきたはずなのに、警鈴は警鐘へと強める。
地面で小さな爆発が起こり、砂塵が後方に舞う。
一足で完全に距離を詰められる。
姫川の踏み込みは今までの比ではない。
だが、見えている!
――そのはずだった。
「ぐぅっ!?」
鋭い痛みが左肩を襲う。
避けたはず。
それなのに突きは俺の左肩を深く抉っていた。
遅れて燃えるような痛みが肩から全身へと駆け巡る。
激痛が巡り、鈍くなった足を無理矢理動かす。
この距離は不味いから。
姫川がほくそ笑み、俺の表情は歪む。
避けたはずなのに……。
左腕がダラリと垂れる。
力が入らないことから、筋肉は断たれ、骨は砕けたかもしれない。
姫川の奴、一体何をしたのか。
――考える時間はないか。
視界で姫川が構えを取る。
俺に考える時間を与えるつもりはないようだ。
関心するほど、勝負感が強いと思う。
そして、容赦ない。
でもな、姫川。
俺はやられて黙ってるほど、軟な奴じゃないんだよ。
片手で木刀を下段に構える。
さっきの突きの正体、見極めてやる!
――――
私の奥の手の突き技。
奥の手だから、みんながいる前で練習したことはない。
いつも一人で練習していた技。
時には寮の部屋で練習して、同室の子と寮長、先生に怒られて、すぐに禁止になったが……。
仕方なく、私は寮の外に出た。
人工の明かりが少なくて、暗い月明かりの元。
一心不乱に練習した。
この突き技を練習しようと思ったきっかけは、とある動画。
フェンシングのオリンピック選手を取り上げた昔の動画だ。
間合いと瞬発力、読みとフェイント。
私の戦闘スタイルにマッチすると思い、動画を見漁った。
その動画のひとつに今回の技があった。
突きの瞬間、柄を握る持ち手を滑らせて間合いを伸ばす技術。
至ってシンプルな技術だけど、やってみるとこれがとんでもなく難しかった。
ましてや私自身は器用じゃないことを知っている。
繰り返し練習しても、上手くいかなかった。
だから、今日は御堂に感謝を伝えたい。
一度も上手くいかなかった、この技。
本当は使う気がなかったのに、挑戦する気にさせてくれたのは私のライバル。
ことごとく、攻撃を凌がれた私に残された手段。
正直、賭けだった。
そして、私の賭けは成功した。
指先に、あの感覚が残っている。
間違いない。
この技は、もう私のものだ。
私はまたひとつ強くなることが出来た。
全ては御堂、あんたのおかげよ。
だから、この技で私は勝つ。
覚悟しなさい!御堂!




