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イヤイヤからノリノリでダンジョン攻略  作者: くろのわーる
ダンジョン編

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60話:イーブン



 姫川の一撃目を凌いだ後、俺達は再び相対した。


 だが、明らかに姫川の雰囲気が変わった。


 気負い過ぎていた感情が薄くなった。


 表情や雰囲気から、読み取れていた次の行動が読めない。


 俺が有利に進められると思っていたのに――


 分は向こうに傾いた。


 いや、これでイーブンか。


 仕切り直して、見つめ合う。


 普段は感情が剥き出しなのに、身体の内に秘めた闘志が伝わってくる。


 周りから見たら、何も変わってないだろう。


 でも、俺達は違う。


 気持ちがせめぎ合っている。


 姫川の剣先が僅かに揺れる。


 だが、俺は構えを変えない。


 ただ真っ直ぐに彼女を見つめる。


 狙いは足。


 それでも俺は微動だにしない。


 揺れない俺を見て、姫川は標的を木刀を持つ腕へと変えた。


 ――それがどうした。


 俺がすることは決まっている。


 姫川の眉尻が僅かに曲がる。


 先ほどよりも鋭くなった眼差し。


 ――楽しい。


 気付けば、自然とそう思っていた。


 俺はこの戦いを知らず知らずの内に楽しんでいた。


 それはしょうがないだろう。


 相手は姫川。


 俺が認める唯一のライバル。


 今、実力が拮抗しているのは姫川だけなのだ。


 つまり、こんな戦いが出来るのは彼女だけ。


 俺は戦いにのめり込む。


 自分の呼吸を忘れたように、姫川の呼吸を探る。


 向こうも同じ。


 俺から何かを感じ取ろうとしている。


 こんな戦いがあるなんて、俺は知らなかった。


 思わず、姫川に「楽しいな!」なんて、軽口を叩きそうだ。


 だから、もっと俺に教えてくれ。


 俺はゆっくりと一歩を踏み出す。


 当然、構えたままだ。


 姫川の手に力が入ったのが分かる。


 更にもう一歩。


 完全にお互いの間合い。


 この距離で動かないことが、逆に不自然なほど。


 周囲の気配が遠のく。


 それでも、息を呑む空気だけは伝わってきた。


 やがて、彼女の腰が僅かに沈む。


 来る!


 高まった集中力とスキル直感が合わさり、それは本能のようだった。


 無駄を削ぎ落とした鋭い突き。


 俺の左肩に迫る。


 身体を傾けて、避けると同時に伸び切る前の腕に木刀を振る。


 俺の木刀は空を切った。


 姫川が咄嗟に木剣から手を離して、避けたのだ。


 そして、再び空中の木剣を握り直す。


「ははは!マジか!」


 これには声を上げずにはいられなかった。


 戦闘中に武器から手を離すなんて、まさに曲芸。


 思いついても普通はやらないだろう。


 俺も姫川も笑っていた。


 最高の笑顔のまま、姫川が木剣を薙いでくる。


 おいおい、避けなかったら首に当たるんですけど?


 しゃがんで避けると、頭の上をヒュッ!と音が通り過ぎた。


 俺はしゃがんだ勢いを利用して、下から突き上げる。


 遠くで「キャァ!」という悲鳴が耳に入ったがどうでも良かった。


 俺の突き上げはまたしても空を切る。


 バックステップで避けられたのだ。


 姫川の長所は敏捷さ。


 特に直線的な動きがとにかく早い。


 バックステップで下がり、足が着いたかと思うともう前に出てきている。


 この切り替えの早さはまさに驚異。


 こっちはまだ突き上げた体勢なのに。


 迫る突きは正確に俺の身体を捉えていた。


 姫川の笑顔が勝利を確信したのか濃くなる。


 釣られて、俺も笑顔が増す。



 姫川の突きは残念ながら、俺の脇をすり抜けるように通過する。


 さっきの姫川の曲芸を見て、思いついた咄嗟の行動。


 脱力。


 俺は避けるのでなく、全身の力を文字通り、全て抜いたのだ。


 力を失った身体は芯をなくしたように傾き、突きを紙一重でヒラリと躱す。


 意表を突く行動に姫川は目を見開かせる。


 そのまま、俺は身体を姫川に預けて、彼女は俺の身体を不本意なまま抱える。


 でも、心拍数は速まっていた。


 周囲は硬直する。


 鼓動で会話する日が来るなんて思ってもいなかった。


 俺達以外は前傾姿勢で見守る。


「やってくれるわね」


「お互いにな」


 端から見れば、恋人同士がいちゃついているように見えたかもしれない。


 でも、空気は正反対にヒリついていた。


「次は当てる」


「何度でも捌いてやるよ」


 剣呑な模擬戦は終わらない。




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