59話:対決
合図と共に姫川が突っ込んでくる。
予想していた通りの動き。
だが、想定よりも速い!
畳まれていた腕が伸ばされ、レイピアの突きが弾丸のように放たれる。
狙いは俺の身体の中心。
つまりは心臓。
相変わらずの強気に口の端が僅かに上がる。
正眼に構えた木刀を添えるようにレイピアに這わせて、軌道をズラす。
「ちっ!」
逸らされた事で姫川は俺の横をすり抜けるが、その際に舌打ちが聞こえた。
反撃の為に振り返ると、既に駆け抜けた後で距離が出来ており、間に合わなかった。
開幕の一合目はドローと言ったところか。
最初とは立ち位置を変えて、相対する。
再び、俺は正眼に姫川は一息ついてから構え直す。
お互いに目を合わせて、俺たちは探り合う。
御堂との模擬戦。
普段の授業でも、張り合うことはあっても真剣に戦ったことはなかった。
きっかけは食堂でのパーティーメンバーからの何気ないひと言。
普段なら、気にならないはずなのに今日は違った。
午前中の模擬戦での熱が残っていたのかも。
気付けば、私は御堂に宣戦布告していた。
でも、あいつは怯むことはなく、見つめ返してきた。
これまでもどっちが強いか、想像することはあった。
結果はいつも私の圧勝で終わる。
開始早々、私の突きに反応出来ることなく、勝敗は決まっていた。
単なる私の願望、あるいは理想か……。
たぶん、ライバルと認める御堂に勝ちたいと思う欲望だ。
それくらい、御堂は強い。
ダンジョン探索が始まってから、私はその事実を突き付けられた。
私にはない、戦いに対する柔軟さ。
思考が柔らかいのかもしれない。
私にはない器用さ。
口は不器用だけど。
教えられた型を誰よりも早く覚えて、職業なしで一番初めにスキルを習得した。
戦闘中、嫌味なくらいに冷静な判断力。
落ち着いて見ていられるし、最近は背中を任せることが増えてきた。
言っておくけど、私だって、あいつの背中を守ってるわよ。
そんな御堂との真剣な模擬戦。
正直、……戦いづらい。
ここまでやりづらいとは、思っていなかった。
実戦でたまに見せる真剣な表情。
慢心も油断も、そして気負いのない雰囲気。
戦っているのに、妙に静かな存在。
私の視線。
手の動き。
足の向き。
その全てを観察されている感覚。
――いや。
見抜かれている。
案の定、私の一撃目は防がれた。
この一撃で決めるつもりで突っ込んだ渾身の一撃のはずだった。
なのに、一切顔色を変えることなく、木剣を握る私の手には優しい振動が伝わった。
フロアボスや東雲先生が相手の時だけに見せる技術。
"受け流し"
初めて見た時に驚く私に東雲先生が説明してくれた。
到底、真似できない技術だと思った。
でも、受け流しを使う時の御堂は本気の現れ。
私のことをライバルとして、認められているようでその事実が少し嬉しかった。
自然と口角が上がりそうになるのを抑える。
気持ちは気負っていたものがなくなったように軽い。
再び、相対したあいつの目からは静かな戦意を感じた。
だから、私も返す。
心を落ち着かせ、この戦意を胸にしまって。
悔しいけど、これが私が認める御堂から学んだことだから。
静かに木剣を構え直す。




