第4.5話:可能性
中部本部ギルド、ギルドマスター室。
選ばれた者達の鑑定が終わり、陽が落ちた時間。
コンコン
「入れ」
重厚な扉を超えて、威厳のある声が響く。
「失礼します」
ギルドマスターの執務室に入ってきたのは背筋が真っ直ぐに伸び、一目で武術の心得があると解る老齢の秘書。
「本日、行われた全選別者の鑑定結果が出ました」
窓の外を見ていたギルドマスターが振り返る。
「そうか、内訳を頼む」
毎年の恒例。
期待に満ちた空気が満ちる。
「わかりました。ではこちらのタブレットをどうぞ」
ギルドマスターの西園寺は秘書から徐ろに、タブレットを受け取ると不意に含み笑いを浮かべる。
「どうかされましたか?」
「ふと昔を思い出してな」
「と言われますと?」
普段見せない態度に、秘書は聞き返していた。
「いやなに、若かった頃は難しいことなど考えずにただお前と肩を並べ、モンスターを倒すだけでよかったのに今では肩の凝る役職に堅苦しい報告ばかり、たまには昔のように何も考えず暴れたいものだと思ってな」
語られるのは若かりし頃の思い出。
「それは残念ながら叶いませんな。今は生存圏奪還と資源の確保が国の急務。その為にも力あるブレイバーを育てるのが会長の責務です」
告げられたのは、味気ない事務的な返事。
「そう固いことばかり言うな。儂も少し息抜きがしたいと思っただけだ」
塩対応につい愚痴になる。
「ではもう少し自覚を持ってください。唯でさえ、最近の魔導技術の遅れは我々ギルド側に責任があると宣う輩が増えて、職員が対応に四苦八苦しておりますのに」
「わかったわかった。儂もそれについては色々と動いているだろうがこの話はお終いだ。報告を始めてくれ」
秘書の小言は長くなることを身にしみて知っている西園寺は途中で話を遮る。
話を遮られた執事は不満そうにため息を吐くと切り替えたように報告を始めた。
「ではまず、今年の選別者は234人。そのうち男が107人。女が127人です」
「わずかにだが年々増えてきているな」
「はい、研究者達によれば人類が魔力に対して、徐々に適応してきているとのことです」
「全人類が適応するのは、いったいいつになるのやら・・・」
現在でも、ブレイバーはまだまだ不足している。
二人の顔には憂いの色が浮かんでいた。
「報告を続けます。今日の鑑定結果で前衛職が4割、補助職が3割、魔法職が2割、斥候職が1割と例年とほぼ変わらない割合となっております」
「希少な回復職は何人だ?」
「今年は4人で過去最多です」
「ふぅ、4人でも最多か・・・」
「はい、こればかりはどうにも、神の采配ですので・・・」
「また、クラン同士の争奪戦が起こるな」
「クランだけではありません。医療機関からも熱望されておりますので、今年はさらに熾烈を極めるかと」
「頭の痛い問題だな」
西園寺は静かに目を瞑る。
「それを穏便に済ませるのも会長の仕事です」
「他人事のようだな」
「はい、私はただの秘書ですので」
「まったくお前と言う奴は、儂と代わらないか?」
「ご冗談を。会長以外に荒くれ者の集団であるブレイバーを従えられる御仁はございませんし、存知上げません」
「いつも持ち上げてくる」
「それが私の仕事ですので」
「まあいい、クランや医療機関には学校を卒業するまで勧誘は禁止するよう再度、通告しておいてくれ。破れば儂が出張る」
「かしこまりました。報告は以上です」
「そうか、ご苦労」
秘書は報告も終わり、西園寺からの指示を部下に伝える為、一礼して部屋を出ようとする。
しかし、西園寺に呼び止められる。
「先程、アメリカのギルド協会から[5次職]のジョブが発現した者が確認されたと報告があった」
その言葉に先程まで余裕を崩さなかった秘書に動揺が現れた。
「真に5次職が発現したのですか?」
これまでに確認されたことのない最高位職。
その強さはどれほどのものなのか、伺い知れない。
「ああ、間違いないらしい。友好国として情報を提供してくれた」
「5次職、それが本当なら・・・」
「大きな時代のうねりが来るな」




