4話:決意
「――職業、なしですね」
その一言で、俺の人生は終わった。
目の前の男は、まるで天気でも告げるような顔でそう言った。
「……は?」
聞き間違いかと思った。
だが、鑑定士の表情は変わらない。
「あなたの職業は“なし”。前例はほとんどありません」
前例がない?
そんな曖昧な言葉で済ませていい話じゃないだろ。
「ちょ、ちょっと待ってください。もう一回――」
「結果は変わりません」
即答だった。
逃げ道を完全に断たれた気分だった。
俺の頭が真っ白になる。
周りの音が遠ざかる。
さっきまであんなに騒がしかったはずなのに。
スーツの男に腕を掴まれて、部屋の外へと出された。
――ブレイバー。
それは選ばれた人間だけがなれる存在。
モンスターと戦い、日本を守る力。
そして、人生を変えるチャンス。
望む者にとっては……。
俺は望んでなど、いない。
なのに――職業、なし?
意味がわからない。
絶望から希望まで奪われたようだ。
隣が何か、騒いでいる。
「俺がポーターなわけないだろぉ!!」
廊下に怒号が響いた。
次の瞬間、男が二人がかりで一人の男子を引きずり出してくる。
「離せっ!もう一回鑑定しろ!」
「結果は変わらない」
低い声だった。
空気が一瞬で凍る。
「お前の職業は“荷物持ち(ポーター)”だ」
その言葉で、暴れていた男子は崩れ落ちた。
――ポーター。
浜口と同じ。
戦えない。
守れない。
ただ荷物を運ぶだけの最弱職。
死亡率が最も高い職業。
そんな職業ですら、まだ“職業がある”。
なのに俺は――
職業なし。
――――――――――――――
能力鑑定を受けた夜。
俺は自室のパソコンの前で静かに画面を見つめる。
目的は告げられた俺の職業:[なし]を調べること。
鑑定室で自分の職業を告げられた後、理解できずに放心してしまった。
そんな俺に見かねたのか屈強な男達は優しく肩へと手を回し、外に連れ出してくれた。
決して職務の邪魔だったから、連れ出してくれたんじゃないと思う。
鑑定が終わった後は、泣き崩れた浜口を学年主任が先導し、放心状態の俺を近藤さんが手を繋いで車まで連れて行ってくれた。
車の中でも一生懸命に励まし、学校に着くまで続けてくれた。
後日、感謝を伝えなければ。
学校は人生を左右する選別とあって、授業は行われず選ばれなかった学生達は現地解散している。
なので誰にも会わなかったのは幸いだ。
正直、どうやって家まで帰ったのか記憶がない。
気付けば、制服のままリビングのソファーに座っていた。
意識が戻ったのは職場で選別に選ばれたと、既に連絡を受けていた母親が両手に大量の食材を持って帰ってきた時だ。
母親の第一声は「久遠、おめでとう〜」だったが俺の顔を見た瞬間。
事情を察したのか「今日は暑かったわね〜」と平常運転に切り替えていた。
その後、大量に買ってしまった食材を無駄にするわけにもいかず、母親が先に手を打っておいたであろう神妙な面持ちの父親と3人、豪華な夕飯を無言で食べた。
何度か両親が話し掛けてきた気がするが全く耳に入ってこなかった。
ご飯もそこそこに勧められるまま、お風呂に入り、少しは冷静になってきた。
そもそも、職業なしとはいったい?
そこで鑑定を受けたのでステータスが見れることを思い出す。
「ステータスオープン」
名前:御堂 久遠
職業:なし
レベル:1/20 0P
筋力:10
体力:12
魔力:1
精神:11
耐性:7
器用:15
俊敏:10
魅力:10
幸運:13
技能
直感
「・・・これが俺のステータス」
本当に現れたステータスボードにも驚きだが自身の能力が数値化され、ゲームのように表示されていることの方が違和感が大きい。
そして、ギルドで鑑定された通り、職業には「なし」と表示されている。
上限レベルは|20・・。
これは低いと言える。
ネット情報だが浜口がなった職業:荷運び人でもレベルの上限は確か30あったはず。
これでは荷運び人以下だ。
それに職業なしなんて聞いたことがない。
いや、俺が知らないだけなのか?
悩んでいても仕方ないので、急ぎお風呂から出ると俺は自室のパソコンへと向かった。
ネット上にはブレイバーに対する書き込みは数多ある。
どうすれば選別で選ばれるか、どの職業が優秀か、どのブレイバーが最強かなど色々だ。
その中で俺が目を惹かれたのはブレイバーの職業に対する考察掲示板。
どんな職業が存在するのか?
上級職への条件等。
次々に過去のログを巡っていき、ついに目的の職業なしの記事を見つけた。
しかし、職業なしの記事は少ない。
曰く、最弱最低の職業。
いや、なしだから職業ですらない。
ポーターの方が1万倍マシ。
肉壁にしか使えない。
人生乙。
そんな中、ひとつ気になる書き込みがあった。
レベルカンストで1次職の剣士にクラスアップした(涙)。
この書き込みに対してもネット民は辛辣だったが、俺にとってはまさに光明が差したようだった。
正直、嘘か本当か審議のほどはわからない。
所詮は匿名のネット情報。
なら俺がクラスアップして、この書き込みを真実にしてやればいい。
そう決意した夜だった。




