第39話:勝負
保奈美のヒールのおかげで、怪我は完全に癒えた。
称号の完全試合が発動出来るのが何よりの証拠だ。
なので今日から再び、授業に参加している。
変わらない午前の走り込み。
――そのはずだった。
「トップは姫川だな。次は御堂か」
東雲先生の無情な宣言。
俺は初めて、走り込みで姫川に負けた。
そんな俺を見て、満足そうな笑顔の姫川。
落ち着け、俺。
病み上がりで尚且つ、ただの走り込みだ。
「御堂、次は素振りだ!早くしろ!」
東雲先生からの催促で、俺は姫川の正面に立つ。
勿論、距離は取ってるよ。
姫川は怪訝な表情を浮かべるが、素振りに集中する。
ひとつ、ゆっくりと息を吸う。
そして、俺は心の中で叫んだ。
スキル、集中っ!!
辺りから音が遠退いた。
サーベルを握る感触だけが、やけに鮮明になる。
一振り、一振りに魂を乗せて振る。
どうだ!姫川!刀剣術スキルを得た俺の素振りに驚くがいい!
雑念で集中スキルが切れた。
「御堂!しっかり集中しろ!」
東雲先生の激はまだ遠い。
姫川を見ると片眉が上がっていた。
そして、真剣な表情で構える。
狙いは――俺の眉間っ!?
前に見た時よりも、滑らかな突き。
眉間、喉、心臓を狙った三段突き。
イメージで俺を三回も突き殺したのか、不敵な笑顔を浮かべる。
……いいだろう。
その勝負、乗ってやる!
振り下ろし。
からの切り上げ。
そして、真一文字に一閃。
トドメは不敵な笑顔。
ニコリ。
姫川のこめかみに青筋が浮かんだ。
俺は素知らぬ顔で素振りに戻る。
姫川のターン!
右腕、左腕、そして首に向けて、レイピアを走らせる。
俺のターン!
袈裟斬り、逆袈裟斬り、そして一刀両断。
お前はもう、死んでいる。
姫川は間違っても、元アイドルがしてはいけない顔をしていた。
東雲はそんな二人を見て思う。
ある意味、集中してるから放っておこうと。
「柴田!山口!いつまで走ってんだ!さっさとゴールしろ!」
激と共に、グランドに終業のチャイムが響いた。
「久遠くん、お疲れ様」
今日も同じグランドで授業していた保奈美が駆け寄ってくる。
「保奈美もお疲れ様」
疲れが一瞬で吹き飛ぶ、とびきりの笑顔。
少し離れた場所では、姫川に真由がタオルを渡していた。
「れいれい!お疲れ!良かったら、このタオル使って!」
「ありがと、でも大丈夫よ」
なんか、二人の距離が縮まったことに不思議な顔をしていると、保奈美がボソッと教えてくれた。
「姫川さん、スキル覚えたんだって」
その言葉でさっきの勝負を思い出す。
以前よりも滑らかな動き、合理的なキレ。
これまでの感情的な突きじゃなく、東雲先生には及ばないが型として完成に近付いていた。
俺は姫川に小さな子供が頑張ってる様子を見守る目を向けていた。
「うざっ!」
うん、いつも通りだ。
俺達はいつも通り、グランドで倒れ込む柴田を置いて、食堂へと向かった。
食堂はいつもよりも静かだった。
というより、疲れ切っているのか覇気がない。
原因はハッキリしている。
来週に迫ったダンジョン実習に向けて、みんな真剣に取り組んでいるのだ。
俺も負けてられない。
そう思ったのは俺だけじゃなかったようで、姫川と目が合った。
午後からのダンジョン実習。
そこで勝負だ!




