第百十八話 朱雀の国への誘い
鼓膜が破れそうな程の大歓声が、辺り一面を満たしている。
その理由は勿論、俺たちが魔王を討伐したからだ。
魔王を討伐し、ロックが討伐の証明となる巨大な魔王の魔石を高々と掲げると、兵士たちは拳を突き上げ勝鬨を上げて、互いに抱き合い涙を流して、喜びを爆発させたのだった。
そしてそれとは対象的に、魔王軍のモンスターは一匹たりとも見当たらない。
彼らは魔王が討伐されたことを理解した瞬間、蜘蛛の子を散らすように敗走を開始し、あっという間に視界から消えてしまったのだ。
まぁ逃げたモンスターたちの討伐は島を包囲している別働隊に任せておけば問題無いだろう。
この島の周囲は玄武の国と朱雀の国の軍艦が包囲しており脱出は困難だ。
遠からずこの島に隠れていたモンスター達は全滅の憂き目にあうことになる。
そうして火の魔王が率いていたモンスターたちは駆逐され、魔王討伐に更なる功績を付け加えることになるのだ。
島の中心部に広がる平地には兵士たちの勝利の雄叫びが響き渡っている。
そして俺の頭の中ではそれとは別の声が響き続けている。
それは祝福の響きだ。
今回の魔王退治は、流石は魔王とその側近相手だけあり、これまでで最も手強い戦いとなった。
そして、そんな相手を倒した報酬もまた大きかったのだ。
魔王討伐直後から頭の中に響き渡っていた長いレベルアップのメッセージが中断されたことにより、それは如実に証明されたのだった。
《経験値が一定値に達しました。レベルが50に上がります。全ステータス値が5上昇しました》
《経験値が一定値に達しました。エラー、レベル上限に達したのでレベルを上げることは出来ません》
《レベルを上げるスキルを選択して下さい。スキル『毒薬師』と『先生』のレベルが10ずつ上昇します》
《スキル『毒薬師』がレベル10になりました。スキルの効果により毒薬を作成する材料を魔力と引き換えに手に入れることができます》
《スキル『先生』がレベル10になりました。スキルの効果により教え子たちの平均ステータス分、基本ステータスに加算されます》
戦いが始まる前の時点で30だったレベルが、一気に現時点での最大値である50にまで上昇してしまった。
しかもこれはあくまでカンスト状態であるからスキルの更新をしてしまえば、更なる成長が見込めるだろう。
他の皆も大騒ぎをしている、どうやら全員揃ってかなりのレベルアップを成し遂げてしまったたらしい。
これによって俺のステータスは以下のようになった。
『名前:ナイト=ロックウェル
LV50
( 『一般人』による上昇値:10
『初心者』による上昇値:20
『努力家』による上昇値:40
『中級者』による上昇値:80
『有名人』による上昇値:160
レベルアップによる上昇値:250
合計:560)
*スキル『町長』の能力により、基本ステータスが4倍にアップ
*スキル『先生』の能力により、教え子たちのステータスの平均が、基本ステータスに加算される)
HP:88+163+560=811 750/811
MP:40+154+560=754 95/754
力:72+162+560=794
頑強:88+163+560=811
素早さ:72+137+560=769
心力:80+148+560=788
運:40+131+560=731
所有スキル(ロック):『一般人』『初心者』『努力家』『中級者』『商人』『中級商人』『薬師』『中級薬師』『罠師』『町長』
所有スキル:有名人LV10、毒薬師LV10、中級罠師LV10、積み重ねし過去LV10、先生LV10
特殊能力:アイテムボックス1100個、薬レシピ入手残り10、薬材料入手、毒薬材料入手、罠材料入手、罠の自動設置』
・一般人(レベルを上げる毎に全ステータスが1増加する)
・初心者(レベルを上げる毎に全ステータスが2増加する)
・努力家(レベルを上げる毎に全ステータスが4増加する)
・中級者(レベルを上げる毎に全ステータスが8増加する)
・有名人(レベルを上げる毎に全ステータスが16増加する)
・商人(特殊能力『アイテムボックス』が使用可能。
レベルを上げる毎にアイテムボックスが10増加する)
・中級商人(レベルを上げる毎にアイテムボックスが100増加する)
・薬師(レベルを上げる毎に、薬のレシピを1つ手に入れることができる)
・中級薬師(レベルを最大値まで上げると、薬を作成する材料を魔力と引き換えに手に入れることができる)
・毒薬師(レベルを最大値まで上げると、毒薬を作成する材料を魔力と引き換えに手に入れることができる)
・罠師(レベルを最大値まで上げると、罠を作成する材料を魔力と引き換えに手に入れることができる)
・中級罠師(レベルを最大値まで上げると、魔力を消費して罠の自動設置が可能となる。その際の魔力使用量は、材料だけを手に入れた場合と比べて3倍となる。この能力で設置した罠には能力者本人は掛かることはない。なお、自力で100以上作成した罠でないと自動設置することはできない)
・町長(町長として働いていた町の住民の数を一万で割った数の分、基本ステータスが乗算される。なお小数点以下は切り捨て。住民の数が一万を切った場合、倍率は1以下には下がらない)
・先生(レベルを最大まで上げることにより、教え子たちの平均ステータス分、基本ステータスに加算される)
・積み重ねし過去(レベルを最大値まで上げることにより、以下の能力が発動する。
*これまでに更新した全てのスキルが永久発動状態となりロックが掛かる。
*以降獲得したスキルも、コンプリートした状態で更新することにより同様の効果を得られる)
危ない危ない、MPがそろそろ危険領域だったじゃないか。
落とし穴だの、カタパルトだのをガンガン作っていたため、魔法職でもないのにMPの消耗が結構激しいようだ。
とは言え、今の俺のスキル構成を見る限り、最も役に立つのはこの『罠作成』だからな。
これがないと俺は平均的で特徴もない単なるステータスの高い奴になってしまうから頼らざるを得ないのだ。
そう、俺はいつの間にやら自覚できるほどにステータスが高くなっていたのである。
特に今回最大値まで上がった『先生』の能力が凄まじい。
全ステータス150前後の伸びとか美味しすぎる。
……いやいや待て待てちょっと待て。
だけどこれはおかしくないか?
俺の生徒と言えば、確かに兵士やら魔道士やらも居たけれど、その大部分は普通の一般市民だったはずだ。
女性も老人も子供だって大勢いたのに、何でこんなにステータスが上昇するのだ。
特に10歳以下の子供はステータス自体を持っていないというのに。
ひょっとしてこれって、ステータスを持っていない子供は対象外になっているのだろうか?
そう考えれば納得はいくな。だけどそれでも高すぎる気がする。
まるで誰か特別にステータスが高い奴が居て、そいつが1人で平均値を押し上げている様な……
「兄さんレベルは何処まで上がった?」
そんなことをサムが俺に尋ねてきて、疑問は瞬く間に氷解した。
そうだ、俺の生徒という括りだと、サムもその中に入るのだ。
多少ステータスの低い者たちが居たとしても、サムのステータスで大部分は打ち消すことが出来るのだろう。
それにライもキングも俺の生徒になる訳だし、他にも実力者が隠れていたのかもしれない。
まぁ細かいことを気にしてもしょうがない。
今はステータスが上がったことを素直に喜んでおけば良いだろう。
俺は上機嫌でサムの質問に答えたのだった。
「お陰様でな、最大値の50まで上昇した。サムはどうだった? 活躍していたから結構上がったんじゃないのか?」
「いや、確かにそれなりの経験値は手に入ったのだが、俺様は大したレベルアップは出来なかったぞ」
「はぁ? 何でだ?」
氷のドームを作るために一歩離れて全体を見渡していたサム曰く、
魔王を倒した後の経験値の分配状況は、ロックが一番大きく、次にテルゾウ殿と俺、そして他のメンバーはほぼ同じくらいだったという。
ロックの奴が一番多い経験値を手に入れたのは、やはりトドメを刺したからなのだろう。
モンスターを倒した際の経験値の分配は、倒した者、倒すために協力した者、近くにいた者の順番となる。
今回はこの場の全員で魔王と戦った訳だが、その中でもテルゾウ殿は終始魔王と激闘を繰り広げていたから2番目に多くても納得ができる。
だが何故俺がテルゾウ殿と互角の評価なのか。
正直今回の戦いでは対して役に立っていなかった様な気がするのだが。
「何を言っているのかね君は。傷ついた者たちの回復、魔王の炎のカラクリの解明、そして最後の逃亡の阻止と大活躍をしていたではないかね」
「いや、でもその前のスネークとの戦いから碌にダメージを与えていなかったのですが……」
「ダメージだけの計算ならば、勇者や我々の総取りだろうさ。だが戦いとはそれだけではないのだ。作戦の立案に相手の拘束や逃亡阻止、これだって立派な功績だ。特に最後の蚊殺し香は大したものだったぞ」
「あれはたまたま持っていた俺の商会の新製品だったってだけの話ですよ」
「君が持つ商会の商品を使って魔王を追い詰めたのだから、それは間違いなく君の功績だろう。つべこべ言わずに納得したまえ。手に入れた経験値を再分配することなど出来はしないのだからな」
そんなものなのか。
いや、確かにジェイクの言う通り、納得出来ないからと言って経験値を再分配することは出来ないのだから素直に受け取るしかない。
とにかくこれでレベルは最大値まで上がったのだ。
これは島を出てヤマカワの町へと戻ったら、早速闇の神殿でスキルの更新をするべきだろうな。
「ところで諸君にお願いがあるのだがね」
そんなことを考えていると、ジェイクが俺たちに1つの提案をしてきた。
それは以下のような内容であった。
「今回の魔王討伐を記念して、近い内に我が朱雀の国の首都バードで戦勝式が開催されるはずだ。その戦勝式の会場で君たちが行っているスキルの更新を実践して見せて欲しいのだよ」
「スキルの更新の実践?」
「何でそんなことを。朱雀の国にだってレベルがカンストしている人間は大勢いるでしょうに」
「もちろんやり方は伝わっているしお嬢のように実際に行った者も存在する。しかし我が国の上層部が難色を示していてな、その説得に協力して貰いたいのだよ」
「上層部が難色って何でまたそんなことに?」
ジェイクが語るには、朱雀の国は身分の差が激しく、貴族と平民の格差が凄いことになっているという。
そしてその身分の差の根拠となっているのがスキルの数なのだそうだ。
スキルの数というのは、何処の国でも一般的に貴族は多く、平民は少ない。
だから朱雀の国ではスキルの数が少ないと言うだけで、平民は貴族から差別を受けているのだという。
だがスキルの更新はその根拠を破壊する代物となった。
最初のスキルの数が少なくとも、レベルアップを続け、スキルの更新をしてしまえば、その差がなくなってしまうからだ。
朱雀の国の上層部は腐敗が激しく、スキルの数は多くともまともに鍛えていない者たちが大半なのだそうだ。
そんな者たちにとって自らの拠り所となっていたスキルの数での優勢が脅かされることは感化できぬ事態らしい。
故に朱雀の国の上層部はスキルの更新の話が伝わり、それが実在すると証明されるやいなや、スキルの更新をさせないように、神殿に平民が近づくことを禁止してしまったという。
だが、腐敗の激しい朱雀の国では抜け道は幾らでもあるらしく、監視の目を掻い潜り、今も続々と平民達がスキルの更新を行っているのだそうだ。
このままではいずれ朱雀の国の支配体制の基礎が崩れ去るのは火を見るよりも明らかである。
だからジェイクは俺たち他国の勇者の供を使い、朱雀の国の上層部の目を覚まさせたいというのである。
「我が国で暴れていた2体の魔王は今回の戦いで退治することが出来た。だがこのままでは我が国は、人と人との争いが勃発しかねない状況なのだよ」
「それで俺たちのスキルの更新を見せたいと?」
「そうだ。特にナイト町長とロゼッタ姫は我が国でも知らぬ者が居ないほど有名人だからな。そんな2人が目の前でスキルの更新をして、大量のスキルと、並を超えるステータスを見せつけてくれれば、それは濁りきった上層部の目を覚ますのに十分な刺激となるはずだ」
「あのバカ共はこのまま濁り続けて死んでも良いと思うけんどもな」
「お父様に同じくですわ。言っておきますけれども我が国の貴族たちは馬鹿しか居ませんわよ」
「まぁそれはカワヨコの街で出会った火の勇者の取り巻きで十分分かっているけれども」
「甘いなナイト。言っておくが、あいつらはあれでもまだマシな方だぞ」
「マジで?」
「マジだ」
マジかよ、そんなに酷いのかよ。
朱雀の国が身分の差が激しい国だという話は前々から聞き及んでいた。
その国がロック達の勇者の供の選別の日にたまたま発見されたスキルの更新のせいでクーデター勃発寸前とか幾ら何でも想定外過ぎる。
俺たちはジェイクの要請を受け、しばらくはスキルの更新はせず、朱雀の国での戦勝式においてスキルの更新のお披露目する事を承諾したのだった。
俺たちの旅の次なる目的地は朱雀の国の首都バードと決まった。
そこは勇者の伝説に欠かせない町。
世界で最も有名なダンジョン、通称『勇者の迷宮』を有する伝説の町への来訪が決定したのであった。
第四章後編、終了
今回で遂にストックが尽きました。
以降の更新は不定期となります。
これからも応援宜しくお願い致します。




